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Re: 銀の炎 <記念ピクチャー作成> ( No.78 )
日時: 2010/11/09 18:20
名前: 杵島 茄武 ◆wWr1IKfGtA (ID: EUGuRcEV)

第21話 『鳥人間』 前編

サイレンの音が国中を覆った。
国中の人々は、何が起きたのかと、一斉に外に出る。


空にはヘリコプターやグライダーなどがあたりをを埋め尽くす。
そして空が灰色になるまで埋め尽くす。





逃走を図っているのは——







鳥か?いや、鳥ではない……竜のような翼を持っている……
具体的に言えば空を飛ぶ恐竜「プテラノドン」のような翼を持っている……





—人間だ!







人間が空を飛んでいる!
それも、パラグライダーなんかで飛んでいるのではない、腕がそのまま翼なのだ!

鳥人ともいえよう少年は、羽をばたつかせず、滑空しているが、
ヘリが空砲を撃った瞬間に、気流を乱し、よろよろと林に墜落した。


だが、立とうとしても立つことができず、ただ腕をばたつかせて逃げようとした。
このままでは捕まってギルドに連れ戻されてしまう……



「誰?」

林の奥から人影が訪ねる。ギルドの研究員か、連れ戻されるのか?
少年はおびえた。駆け寄ってきた人影は少女だった。その少女は診療所にいる—ハヌーネ。


彼女は一瞬戸惑った。

「ここで何をしているの?」

「たた、助けてくれ!」

悲痛の声を上げる少年に、ハヌーネは肩を持ち上げようとしたが、
なんせこの少年は腕が翼なのだ。ハヌーネは「きゃっ」悲鳴を上げた。


少年は負けじと悲鳴を上げる。

「そんなのはかまわないでくれ!き、君にかくまってほしいんだ!」


ハヌーネが、鹿笛を鳴らした。鹿笛に応えたかのように、
トラが少年の目の前に現れた。間髪いれずハヌーネは言った。

「この子はあなたの見方よ、怖がらないでね」

ハヌーネはその少年をアルトの背中に乗せ、一目散に診療所へ逃げ込んだ。
シーボルトの診察室へ少年を連れ込むと、シーボルトは仰天した。仰天するのは無理も無いが。


「なんだ、これは……!腕が羽になっている……どういうことだ?」

少年は重々しく口をあけた。

「俺は……ティムソン……まず、診察をしてください」

シーボルトはティムソンの体を隅々まで調べた。驚いたのは腕だけではなかった。

「体重27㎏、身長、163cm……だと?内臓脂肪、皮下脂肪共に著しく少ない。
内臓の働きは正常……この場合、脂肪で内臓が守られているのに、どういうことだ?
足もほとんど筋肉、脂肪がない…体脂肪率は、推定で3%。
これでは生命の危険にさらされる!体を改造されたということしか考えられない!」

「そうです」
間髪いれず、ティムソンは答えた。

「俺は、筋ジストロフィーといって、足の筋肉が衰えてくる病気なんです。
今までずっと車椅子生活をしてきたのです。俺は、足を動かすより、空を飛ぶ夢があったんです。
そしたら、ドレット大学の一人が、空を飛べるように体を改造してあげると、しかも無償で!
だから、こんな体でも空を自由に歩く夢がかなったんです。
地面を歩かなくてもよかったんです……」


「なんで、ヘリに追いかけられていたの?」
ハヌーネは問いかけたが、ティムソンは答えようとしなかった。秘密を隠す子どものように。

「元の体に戻りたくはないのか?」

「嫌です!俺は、空を飛びたい!鳥のように……!先生、僕を鳥にしてください!」

訴えるティムソンに、シーボルトはこぼした。

「お前は、人間としての誇るべきものがあるのに、何故鳥になりたいとほざいているのかね。
鳥は自由に飛べるかもしれないが、人間のように、思い巡らすこと、
感情を持つこと、言葉を発することができない。


だが……お前の願いとなれば、鳥にしてあげてもよい。鳥のように、空を飛びたいのか?」

「はい、どうせ世間は僕を病人扱いして、冷たくするんですから、
俺は鳥になって自由に空を飛びまわりたい……」



シーボルトは白いあごひげをつまんだ。

「しばらく考えさせてくれ」



シーボルトはそのまま診察室を出た。