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Re: 銀の炎 <鳥人間現る!> ( No.87 )
日時: 2010/11/16 23:11
名前: 杵島 茄武 ◆wWr1IKfGtA (ID: EUGuRcEV)

第24話『雪娘』

「うへぇ!鉱山は寒いでごんさぁ」

「そんな事言ってる暇があるなら、
この蛇女をとっ捕まえるんだな!」

「声が大きいでっせぇ……このことはハイパー・ミッションなんでっせ、
せっかくロストワンからここまできたというに……」

「ふん、どちらにしろここは人がほとんど来ないフジャルワ山脈だ、
大声出したって吹雪にかき消させるぜ」

「うへぇ……」

フジャルワ山脈を黙々と登る、怪しい人影が揺らぐ。
彼らはこの蛇女を拉致し、内陸のユキヒョウを捕まえる気だ。

となると、密猟者のポーチャルにでも絡むのか?
これは失礼、ポーチャルとはこの国では名の知れる存在だ。
ポーチャル・ブランドとは、最もこの国のポピュラーブランドで、
若い人やセレブ御用達の代物。
だが、そのポーチャルも、どうやら裏の顔があるらしい。
裏は、なんと言っても密猟者やマフィアを股にかけているとか。
そういう噂も、最近は風化してきているらしいが、
裏ではこそこそながらも大胆な密猟をしている。
たとえば、シベリアトラは絶滅危惧だが、
密猟して、他のマフィア共に売っているらしい。
その莫大な金額も、どうやら警察も疑っているってね。
だから、この2人もこんな寒い中密猟をしているわけだ。

この小柄で顔色が悪いやつは、スライ・ド・クネスといい、
この大柄なクラヘロスにしぶしぶ従っているらしい。
2人は、狩猟するための銃を持ち、ユキヒョウを探している。
だが、スライの様子がおかしい。

「お、おいアニキ!あそこに、な、何かいるよ」

「んん?何もいねぇじゃねぇか」

「いや、雪に混じって、雪とそっくりな……」

「何をとぼけてるんだよ!寒くて幻覚でも見たんだ。
もしかしたら、蛇女かもしれねぇぜ!」

クラヘロスは、大柄な身を横にずらし、スライが見た方向へゆっくりと、そして、銃を構え……

「んでぇ、いないじゃないか!やっぱり幻覚でも見たんだよ!」

「ちち、ちがいますってぇ、アニキ!ほ、ほらあそこ……」

スライが指を指した方向には、明らかに何かがいる。

「…………」

「ありゃユキヒョウに違いないぜ!銃に弾入っているか?撃ってみよう」

クラヘロスは一発、その方向に銃を撃った。だが、その影はどんどん近づいてくる。

「うへぇ、近づいてくらあ!」

「黙れ!もう一発……」

クラヘロスはまた銃を撃った。だが、絶対当たったはずなのに、
影は揺らぎもせず、近づいてくる。

「おい、スコープを貸せ」

クラヘロスは、スコープをじっと見つめた。そして、クラヘロスの唇が震える。

「ありゃ人じゃないか!遭難しているんだ」

「ちょいまってくだしい、
わしらのミッションは人助けではないでっせ!」

「う、うわぁ!」

クラヘロスが尻餅をついた。
人影はいつの間にかクラヘロスのまん前にいる。
人影は、ただ人の形をした雪だ。人影に沿って、雪がふぶいている。

「ゆ、雪娘ではないか!」

「雪娘ですかい!ただの伝説かと思いましたぜ!」

「…………」

人影は次第に濃くなり、髪の長い少女へ変化していった。

「こ、これでも幻覚だぁ!し、しっかりするんだ、お、俺!」

「うへぇ、今日は引き上げたほうがいいんじゃないですかい?」

髪の長い少女は、薄いワンピースを着た少女へと変化した。
そして、2人の男に差し迫ってくる。

「に、逃げろー!」

2人は逃げていった。
少女は、右手を少し伸ばし、後は追おうとはしなかった。

だが、寒い中、ワンピースだけ着ている。
しかも裸足で、肌は赤みが無い。
幽霊そのものだ。その少女は吹雪の中へ消えていった。