ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第1話「黒の少年」 ( No.7 )
日時: 2010/08/22 19:37
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 3mln2Ui1)

 第1話「黒の少年」


 私の名前はセティ・ブレア。明るさと行動力が取り柄の女の子かな。ちなみにここは「バレア女王国」といって外交が得意とされる国で周囲には皮肉を込められて魔女の国とも言われている。女王陛下の巧みな外交手腕がこう言われる原因の一つらしい。そしてこの世界は魔王と言われる者が存在すると言われており、それに関する話が禁忌とされていた。

 私はずっと『おとぎ話』と呼ばれているお話が大好きだ。お姫様や王子様、魔法使いに妖精達。こんなに夢がいっぱい詰まっていて不思議な物語はあるだろうか。その中で特にお気に入りなのがこの“魔王様”と“勇者様”が主人公の物語である。その名も『魔王物語』。もちろん、この話も禁忌とされ封じられている。なぜこんな話を知っているかって?父がこういう話も知識の一つだ。と言って禁書と言われるこれらの本をこっそり保管しているからだ。

 話の主人公は魔王ルディアスと勇者ミリオンだ。内容はまぁ、勇者が魔王を討伐しようとするものだけれども。ただこの話は変わったことに、勇者と魔王どちらとも死なない話になっている。昔からある話で、平和の大切さを考えさせられる話だ。

 私がこの話を好きなのは他の理由なのだけれども……。

 どんな話かというと……。

「何をぼーっとしているのさ?セティ」

 いきなり声をかけられて私は驚き、勢い良く声がかけられた方向へ顔を向けた。

「なんだ。ルーかぁ」

 そこに立っている人物を確認して私は安堵の息を吐く。短い艶やかな黒髪に陶器のような白い肌で整った顔をしている目の前の少年は私の幼馴染だ。少女のような華奢な体をしているので時々女の子に間違われる。これで黒ぶちの丸眼鏡を掛けているのだからもったいない。まだ十三歳という年齢だから声変わりを迎えておらず、声が中性的なのが拍車を掛けているのか。ハスキーな女の子の声と変わらないんじゃないかと思う。

「なんだとは酷いな」

 私の言葉にルーは苦笑した。

 ルーは十三歳にしては背が低い。私の肩に頭があるくらいだ。そして顔立ちも幼くかわいい。それにしては行動やしぐさが妙に大人びている。なぜか知識や言動は大人顔負けの実力だ。まぁ、それを差し引いても可愛いと思えるのだけども。弟みたいなものだし。

 私がじっとルーの顔を凝視していたからかルーが眉を寄せた。

「何?僕の顔に何かついてる?」

「いや、何で眼鏡掛けているのかな?って思って」

「なんでって…………僕が余所者だからじゃないか。まぁこの目の色のせいだともいえるね」

「えー?私は綺麗だと思うんだけどな。羨ましい」

「それはセティだからそう思うんだよ。ほかの奴が見たらきっと気味悪がるね」

「そうかな?」

 私がそう問うとルーがそうだよと頷いた。実はルーはここの国の人ではない。この国の人の瞳の色は決まって金か茶色だからだ。だからといってどこの国の人かと問われれば首を傾げるしかない。何故なら紫の瞳を持つ人の国なんて聞いたことがないからだ。まぁ、私はルーがどこの人だろうと関係ないのだが。どこの誰だろうとルーがルーなのは変わりないんだし。

「それはそうとセティ、こんな所まで来てどうしたの?ダグラス博士に用でも?」

「父さんじゃないわよ。ルーに用があったの」

 私の父は天文学者でルーを助手として雇っている。行くあてがなかったルーに衣食住の代わりに勤めてもらっているのだ。ちなみに父さんとルーが住んでいるのは村からかなり離れて建っている塔だ。

「僕に?」

「うん。そう。三日後に公爵様のお城で舞踏会があるでしょう?ルーも一緒に参加しよう?」

 三日後に開かれる舞踏会は一般の人も参加可能で十六の誕生日を迎えた娘ならば誰だって参加可能なのだ。そして、私は明日で晴れて十六歳となる。もちろん、エスコート役として誰を連れて行ってもいいのだ。これはバレア女王国ならではのお祭りみたいなものなのだ。

 そしてルーは予想通り嫌そうな顔をした。人付き合いが苦手なルーにとってこれはあまり参加したくない行事なのだろう。

「え?僕にエスコートしろって言うの?どう考えても無理だよ」

「拒否権はないわ!それに私、明日誕生日なのよ?願い事ぐらい聞いてくれてもいいじゃない……」

「うっ」

 しゅんと私がしおらしく呟いてみるとルーは低くうなった。心の中で葛藤をしているのだろう。何だかんだ言って最後はわりとお願いを聞いてくれる。優しい奴なのだ。ルーは。取っ付きにくくて誤解されやすいけれど。

「……わかったよ。セティと一緒に行ってあげるよ」

 やれやれと肩をすくめてルーは大げさにため息をついた。

「ほんと?やった!!約束よ!また明日ね!」