ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 嘘吐少年の狂日 ( No.51 )
- 日時: 2010/09/24 22:53
- 名前: 時雨 (ID: bQbYMR0G)
「はい?」
耳の調子がおかしいのだろうか。
むむう。
僕にはあの事件がこいつのせいだと聞こえたぞ。
「だから、あれは俺がやったって言ってんの」
間違っていなかった。
ふーん、へーえ、ほぉ。
「おいお前、ちょっと僕に付き合え」
「いいぜ。急ぎらしいし、なにより今日は俺らが出会えた日だ」
夜鐘は笑った。
「説明してもらおうか、透」
僕の家。
透の部屋。
透はパソコンを見つめて僕の問いに答えない。
「おい——」
「何?」
突然透が訊いてきた。
目はパソコンを向いているが。
「あの連続殺人事件のことだよ」
「あの澪ちゃんのこと?」
「違う。あれ、別の人が殺ったんだってな」
透がこっちを向いた。
睨んではいない。密かに笑っている。
こいつが笑わないのは癒毬さんと会った時だけだから(僕の体験談では)。
「どうして、知ってるのかな?お兄ちゃん」
「さっき会ったんだ。本人と」
「?」
疑問のマークを頭にだしたような顔をする透。
僕は扉に向かって「こい」と言った。
扉が開いて夜鐘が———現れなかった。
「は?」
扉の向こうを見てみたが誰一人としていない。
「逃げやがった…」
「…お兄ちゃん、えっと、うん。言いたいことは分かるよ」
透が…いやだ、恥かしい。
「ひとつは、どうして澪ちゃんがあの時人を殺したのか。
もうひとつはどうして私が嘘を吐かなきゃいけなかったのか」
僕が聞きたかったことを、間違いなしに淡々と告げる。
「澪ちゃんが殺したのはとある刺客でね、殺人鬼だからじゃないよ。お兄ちゃんがたまたま見かけただけで。
僕が嘘を吐いたのは……出会ったなら仕方がないんだよね。……僕は本当はお兄ちゃんとあの殺人鬼を会わせたくなかったんだ」
「どうして?」
「だって、そしたらせか……ううん。ただ、僕にも夢があったんだ。今、消えちゃったけど」
今にも泣きそうな顔で。
泣けばいいのに、泣かないで。
目に涙すらたまってないのに、それでも泣きそうな顔で。
夢。
透の、夢。
「それは、僕のせいなのか?」
なんで?
ただ、それよりも。
今泣きそうな顔の透よりも大切な。
僕の嘘。
なんで透が吐くんだよ。
「嘘吐少女の狂日」が近づいてしまった。