ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: あやかしあやし ( No.13 )
日時: 2010/12/11 09:29
名前: 出雲 (ID: kDmOxrMt)


《1》


—太陽は隠れたまま—



今日も世界は闇に包まれたままである。

「いつになったらお天道様は顔出してくれんのかね」
俺と同じように今日もまた空に顔を向けていた男が隣でそうつぶやいた。

「そうですね」
とりあえずの相槌、それに男は不満そうな顔をした。

「いつになったらお前は俺の名前を呼んでくれんのかね」

「     」
沈黙。


そうだ、思えばこの男は毎日俺と一緒にいる、筈なのだ。

同じ妖壊師として、同じ人間として俺は毎日男の顔を見ている筈なのに一度もその名を読んだ記憶が無い、何故呼ばないかは自分でもわからないけど。


呼ぶ必要が無いからだと思う。


そんな沈黙に耐えきれなくなったのか男は言う。
「おーい、聞いてるか?日無菊クン」

「ソッチ名前じゃないですよ」

「知ってるけど、流石に自分の名前は忘れないかー」
嵌めたんですか、別にそれがどうしたって話だけど。


「俺の名前、覚えてる?」


覚えてるわけがない、というか聞いた記憶もない。

「    」
そしてさらに沈黙。


「やっぱ?毎日俺は自己紹介しなきゃならないのか」
毎日?

昨日も言われたのだろうか、全く記憶がない、一文字も分からない。

「……でお名前は?」


「水月 疾風」

ミナヅキ ハヤテ?

だそうだ、珍しい名前だな。
第一印象はそれに限るけど、同い年らしい彼は。


「はぁ」


「で、名前では呼んでくれないのか?」

「はい」
キッチリと断っておいた。

俺は妖壊師が嫌いだ、だから自分自身も大嫌いだ。
だから、大嫌いな存在と親しくするなんてこと絶対にしたくない。

俺は人間がゆるせない。

人間が言う言葉じゃないけど、こんな無力な俺が何億もいる【人間】という存在を敵に回しても勝てるわけがない。



そんなの知ってる。



—姿を現すことはないだろう—