ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 奇跡の人形 ( No.6 )
- 日時: 2010/09/20 18:40
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: aw3qwL.x)
なんで、私は動けないんだろう。
なんで、私は歌えないんだろう。
なんで、私はあの人と話すこともできないのだろう。
私はなんで人間に生まれられなかったのだろう。
白いレースのカーテンが揺れる部屋で白い椅子に座っている少女の人形は、いつものように考える。
自由に動けない、自分の好きな歌も歌えない、自分をいつも可愛がってくれる人と話すこともできない。
そんな体、私はいらないのに。
人形は人間を羨み、毎日自分が人形に生まれたことを後悔していた。
自分にはないものを持っている人間。好きなように動ける、好きなように話したり歌ったりできる人間。
人間は人形にないものをたくさん持っていて、人形はいつもそのことを考える。
木製の白い肌、人の形をした体。肩まである金色のふわふわとした髪と澄んだ青い目。
そして、決して微笑むことのない、美しく化粧された顔。
それが、人形の持っているものだった。
人間になりたいとは言わないから、せめて私も自由に動かせる体や綺麗な声が欲しい。
人形がそう思っていると、窓側から音がした。
「お邪魔します。……と言っても、誰も返事なんてくれませんよね」
心地の良い、低めの声が人形の耳に入る。
人形は声の主を探そうとするが、人形は動けない。
窓の取っ手を白い手がしっかりと掴む。
「よいしょ」と言って、白い窓枠にもう1本の白い手をかけ、白いローブを着た少年が窓枠を白い足で踏みつける。
もう片方の足で屋根を蹴って、なんとか窓枠に立つ。
窓のとってから手を離し、白いローブを着た少年は人形のすぐ隣に飛び降りる。
金色の髪に蒼い瞳。そして、純白のローブと悲しげな雰囲気を身にまとっている。
「……あの人はここに入ってはいけないと行っていましたが、いいですよね。今回だけは」
少年はそう呟き、小さなため息をつく。
この人、誰なんだろう。なんで、ここにいるんだろう。
窓にはちゃんと、鍵がかかってたはずなのに!
少年は人形の方を向き、やわらかく微笑んだ。
「安心してください。私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
少年はそう言ったが、人形は少年を信じることができなかった。
鍵がかかった窓をこじ開け、いきなり人の部屋に入り込んでくる人のことなど、信用できるはずがない。
「私は貴方の願いを叶えに来ただけですから、どうか怖がらないでください。ね?」
少年はそう言うが、人形はまだ少年のことが信用できなかった。
自分は人間や、ロボットのように動けはしないし、声も出せやしない。そう思っていたからだ。
「貴方に美しい声と、自由に動ける体をあげます」
少年はそう言って、人形の頭に手を置いた。
人形は少年のことを疑っていたが、体を動かせないのでジッと座っていた。
人形の頭に手を置いてから1分経つ。少年は「……よし」と言って、人形の頭をから手を離した。
「試しに、腕を動かしてみてください。それと、声も出せるようになったはずなので、何か言ってみてください」
少年がそう言うので、人形は手を自分の目の前まで動かし、指を折ったりする。
凄い。私、動けるようになってる!
「メルシー! 私、今トテモ、ジュワユー」
人形は少年にそうお礼を言う。
声も、ちゃんと出せるようになった。高く澄んだ、美しい声だった。
「どういたしまして。でも、貴方の体は木の人形のままなので、そのことをお忘れなく」
人形は「ウィー!」と元気に返事をし、この部屋から出ようとドアまで歩いて行く。
その時、1つの疑問が浮かんだ。
あの少年はいったい何者なのだろうということもあるのだが、あの少年は一体どうやって帰るのだろう。
人形はそう思って後ろを向いたが、そこにもう少年の姿はなく、レースのカーテンが揺れているだけだった。