ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 回転と僕 ( No.11 )
- 日時: 2010/09/11 20:55
- 名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)
第六話 出会いの終わり −②
「んじゃ、セッションといきますかー」
桜崎は妙に楽しそうだった。目の前にはパイプイスに座った和義さんがいる。その視線は温かい。
桜崎を挟んで反対側に、宮木がいる。宮木はベース触りながら、やはり不気味な体勢でベースを構えていた。
ヒメは、ドラムの前座り無表情でスティックをスティックで叩いていた。
まじまじと見てみると、なかなかの美少女であると分かる。金髪じゃなくて、黒髪だったら良かったのにと少し思っていると、ヒメと目が合った。
しかしヒメの方から視線を外し、8ビートを刻み始めた。
そして宮木が入る。次に桜崎。
負けてられない——。僕も入る。
僕の目の前に、一点の光も無い暗闇が広がる。
空間すべてに桜崎の声が広がって——いや、空間そのものが音と化し、前も後ろも横も、東西南北すべて分からない。
しかし、僕は確かに音を刻む。それはまるで時を刻むように、せわしなく、力強く。感覚が麻痺するほどの爆音。僕のすべてを狂わせ、やがて冷静にさせる。
僕の心は、驚くほど穏やかで、静かだった。でも刻まれる音は、すべてを飲み込む狂気に変わっている。なんて心地良いんだろう。
これが、僕ら始めてのバンド演奏だった。
僕は彼らを見た。
誰も、誰も目を合わせようとはしなかった。気付いた。気付かれた。気付かせてしまった。
僕という人間のすべてを、赤裸々に音に乗せた。
生々しいほどに。
「あんたさぁ、名前、なんていうんだっけ」
そう声を発したのは、ヒメだった。名前は先ほど耳にしたはずだと思うが、改めて聞く、という感じだった。僕は呼吸が乱れたままの声で、応えた。
「吉川、春臣」
そういうと、ヒメは険しい表情を崩さないまま、
「吉川、ね。私は霜月ヒメ。こんなナリだけど17歳」
年上、という事実には驚いた。しかし仮に27歳だ、というわれても、驚きの度量はさほど変わらないだろう。
そしてヒメは、険しい表情を一変させ、微笑した。そして言った。
「こんな最低なバンド演奏、聴いたことない。面白くなりそう」
それはここにいる全員が感じていた事だった。
それは相性が悪い、などという生ぬるいものを遥かに超え、生理的な拒絶さえ感じるほどの、濁っていて、理解不能な、四人のハーモニーだった。
「ヒメの笑顔なんて、久しぶりに見たなあ」
そういって和義さんは、嬉しそうに笑った。