ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 回転と僕 ( No.13 )
日時: 2010/09/13 08:01
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

第七話  恋?



 「ここ!ここ!ここ!ここ!ここで曲と一緒に歌もドーンと下げるっ!下げる感じで!なんかズドーンといきなり落下してその地点で前に進んでいく感じっ!そしてそこで俺が叫ぶ!希望も絶望も救出も言葉も存在しない、そんな小さな空間に足を動かし続ける者達、それが俺らだ!」
 「何言ってんだか分かんねえよ。つうかそんな曲ばかりじゃねえか…」

 昼休み。学校の屋上。天気は快晴。
 吉川春臣と桜崎八雲は、こうして時々一緒に昼食をし、ノート片手に曲作りに励む。
 励むといっても、その進行速度は不規則で、一週間で完成してしまう時もあれば一ヶ月もできていない時もある。
 それでも怒る人は誰もいないので、気軽に曲作りに励めているのだ。

 春臣と八雲の相性は悪くなかった。
 けして、とても良いという訳ではないが、春臣が心許せる相手の一人でもある。

 八雲は片手にコンビニエンスストアで買ったサンドウィッチを持ち、立ち上がって大きく背伸びをし、欠伸をするような声で言った。

 「俺らが出会って、もうすぐ二ヶ月だなー」

 季節は夏に近づく。こんな雲ひとつない快晴の日ともなると、肌にじわりと汗が滲むこともあった。

 「それがどうしたってんだ」

 春臣は心底どうでもよさそうに、紙パックのお茶のストローに口をつける。
 八雲は勢いよく振り向き、春臣の隣に座った。

 「あーもう別にどうしたとかねえっつの!二ヶ月だなーそうだなー早いなーこれからも頑張ろうなーって、流れだろうがっ!」
 「え、ああ、そうなのか。わり。うん、頑張ろう」

 八雲は満足げにため息をついて、空を見上げた。
 心地よい風が、二人の横を通り抜けた。耳から聞こえる、生徒達の眩い青い声。

 「なー」
 「なんだよ」
 「臣さあ」
 「何」
 「クラスの女子に告白されたんだって?」

 春臣は一瞬間を置いてから、驚愕した。

 「なんで知ってんだよ!」

 春臣の顔は少し紅潮していた。それを見た八雲は白けたような顔をして、深くため息をついた。

 「噂ってのは流れる為にあるんだぜ」

 お得意の意味不明な一言を発し、普通の男子高校生のように羨ましがった。

 放課後、人があまり通らない校舎の一角に呼ばれ、もしかしたらと思っていたら、案の定「告白」というものだった。
 吉川のこと、前から気になってたんだけど、良かったら付き合ってください。
 目の周りを真っ黒にして、極限までスカートをあげ、爪を伸ばし、髪をしきりに気にしていた。
 今時の、特に目立つ欠点のない、普通の女子だった。仮に春臣と付き合う事になっても、違和感はない。それこそ普通の高校生カップルに見える。

 悪い。今は誰とも付き合えない。ほんとごめん。でも気持ちは嬉しい。
 冷めた男、精一杯の気持ちで断った。

 「でさあ」

 しかしその後の一言は確実に余計だった。
 春臣自身も人生初めての「告られた」を身を持って体験し、少々パニックになっていたところもあったと自重している。しかしそれでも。あれは、ない。

 「好きな人がいるから無理ってどういうこと?」

 好きな人いるからさ、付き合えない。ごめん。
 そういうと彼女は早歩きで去っていった。良かった。上手く断れた。そう思ったのが最初だ。
 もちろん、断るときの決まり文句という他何者でもない。
 好きな女なんて、今のところ、存在しない。

 「いくらパニクってても、臣はそんなこと言わないだろって、俺は思ったんだけど」

 いない、いるなら気付かないはずがない。それは自分を冷静に分析しても尚いえることだ。
 春臣は、他人にも自身にも鋭い。鈍感さなんて欠片もありはしない。
 しかしなぜ、あんな言葉が口から出たのか、不思議でならなかった。
 考えて、考えて、考え抜いた末、この一言にたどり着く。

 「よ、欲求不満だな。お年頃ってやつでしょ」

 欲求不満。瞬時に自身に問いかける。なんの欲だ?何に対して?

 「はあ?じゃあ付き合っちゃえば良かったじゃん」

 仰る通り。春臣は恋愛というジャンルに対して、鈍感なのではなく疎いのかもしれない。そう思った途端、自身に対し虚しさを覚えた。

 「まあ、いっかー」

 面倒臭くなったのか、八雲はへらっと笑ってその話題は終了した。
 思わず、お前は霜月さんが好きなんだろう、と喉元まで出かけたが、なんとか飲み込んだ。