ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 回転と僕 ( No.3 )
日時: 2010/08/30 11:46
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: gQELPCFY)

第一話 エルレガーデン



 耳に入った途端、僕は催眠術にでもかかったように繰り返し聴いていた。

 当時僕は中学一年生で、学校の帰りに、ビルに入っているCDショップで時間を潰していた。
 友達はみんな部活。だいたいの人は部活に関心を向けているが、なぜか僕にはまったく無かった。部活をやりたいなんて微塵も思わなかったのだ。我ながら不思議だった。新入生部活紹介なんか見ていても、そそられるものをまったく感じない。人間が球使ったり楽器使ってなんかしてるだけ。僕にとってはそれだけの事。価値なんて見出せなかった。

 だから部活の盛んな僕の中学で、(しかもやる気満々の中一で)部活に入部届けを出したことのない人間は僕だけかもしれない。担任にも「部活入らないの?」と大きなお世話極まりない言葉をかけられた。

 僕は気にいらなかった。
 なぜ、中学に上がったイコール部活なのか。
 なぜ、成績が良いイコール良い高校なのか。

 こんなデザインされた人生を歩むなら、ホームレスになった方がマシなんじゃないかと思う。こんな馬鹿みたいな事、誰にも言えないなかったけど。

 僕の価値観は中一で土台はできていた。
 それから細かく変わったところはたくさんある(例えば先ほどのデザインされた人生よりホームレスのがマシだという件だが、あれは真っ当な人生を歩んでいる人にも、ホームレスにも失礼だという事を理解した)が、根は変わらない。

 そんな僕は、音楽にも特に関心が無かった。
 中学生にもなれば、好きなアーティストの一人や二人居てもいいのだが、僕にはまったくいなかった。
 友達にいくつかお勧めアーティストのCDを借りて聴くが、話題についていく為でしかない。歌詞にも音楽も、ただの言葉と音でしかなかった。

 嫌いではないが、好きでもない。どうでもいい。
 僕にはそういうものが多すぎるのだ。
 でもドラマもバラエティも人並みに観るので、学校生活を送っていて浮く事はなかった。

 なんとなくCDジャケットを眺めながら、いまいち活気のない店員には働けよと念を送り、本屋でも行くかと思っていたその刹那——。

 耳に入る、音。

 音。
 音。
 音。
 なんだこれは。

 最初は訳の分からない不快感が体を蝕む。
 なんでこんなに気持ち悪いのか。

 それはこの店内に流れる音楽が、僕が始めて「音楽」だと認識したものだったからだ。
 今まで僕にとって音楽とは「音」でしかなかった。
 しかし流れる音は僕の中で果てしなく音楽になっていく。

 僕の心を乱し、生かし、殺す。

 今までこんな事無かった。
 これが、僕の嫌いな奇麗事として使われる「心を動かす」というものなのか。
 静かに、そう感じた。

 これが僕とエルレガーデンの出会いだった。