ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 回転と僕 ( No.5 )
日時: 2010/08/30 12:28
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: gQELPCFY)

 先ほどの活気の無い店員にすぐさまこのアーティストは誰なのか聞いた。すると特に深く考えていない表情で

 「ELLEGARDENです」

 聞き取りやすい声だった。短い英単語なのにちゃんと英語に聞こえた。僕はCDどこにありますかと尋ね、活気のない店員改め(ネームプレートを見た)坂木店員は迷いのない足取りで案内してくれた。もしかしてこの人、そのエルレガーデンのファンなんじゃないだろうか、と思った。

 エルレガーデンのところには、ちゃんと何枚かCDが置いてある。中でも黒いジャケットのアルバムらしきCDには店員が書いたと思われるカード(POPというらしい)があって、そこには「ELLEGARDENベストアルバム!!」と書いてあった。僕はここで初めてエルレガーデンというのがバンド、バンド名のスペル、を知った。

 「これが活動休止前最後のアルバムです。メンバーが選んだベストアルバムなので、初めて聴く人でもお勧めします」

 愛想よくCDを手に取り、僕に渡した。迷いはない。買う以外ない。元々物欲があまりない僕は、お小遣いが有り余っている。

 「え?活動休止?」

 思わず流してしまいそうになったが、顔をあげ店員を見る。愛嬌のある、少し太った顔。エプロンがよく似合う。

 「ええ。去年に活動休止を宣言して、まだ現在進行形です。ああでも、休止、なので解散したわけじゃないですからね」

 やはりこの店員、ファンなんだ、と思った。
 僕はCDをぎゅっと握り締めた。
 いつのまにか店内を流れる音楽は変わっていた。

 「今流れているこの曲はどうですか?最近ブレイクしかけてこの季節には——」
 「いや、あの、結構です」

 曖昧に笑い、拒否した。商品を売りたい気持ちは分かるが、他人の勧めほど不愉快なものはない。

 「…ELLEGARDEN、良いですよ〜!」

 満面の笑みで店員は言った。僕は思わず、「何が?」と聞き返しそうになったが、堪え、今はこのCDを開封し、プレイヤーに挿入しなければ。そればかり考えていた。