ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 回転と僕 ( No.7 )
日時: 2010/09/02 22:01
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: gQELPCFY)

第二話  三年後



 高校生になった。

 別に特別入りたかったという訳ではない、電車で三駅先の、私立高校。
 軽音楽部は存在した。が、この部活に入りたいとは思えなかった。ギターの腕はハタから見ても中々のものになり、バンドを組みたい、と思い始めた。でもだからといって、イコール軽音楽部に入る、とはならなかった。中学生の時からこの辺りは何一つとして変わらない。

 もちろん、変わらないといっても進化しているつもりだ。軽音楽部の見学には行ってきた。
 だが、ただ表面的にかっこいいだけのアニメの曲や、相変わらず濁った「音」にしか聴こえない「音楽」ばかりで、バンドをやりたいという気持ちが深まる事はなかった。

 しかし僕が考えている「道」は他にもあった。

 学校が終わると、すぐ近くのライブハウスに足を運ぶ。ここが一番、僕曰く「音楽」というものを聴ける確率が高いのだ。少なからず、同じものを感じる者達が集まる場所だからかもしれない。
 
 顔馴染みの店員と他愛のない会話をし、掲示板に目を向けた。
 ライブハウスの掲示板には、色々なバンドがメンバーを求めるポスターが張り出されている。
 僕は今、ギタリストを求めるバンドのどこかへ入ろうと思っているのだ。

 僕が演りたいのは、ハード。
 ロックを知ってから、洋楽のハードロックバンドにものめり込んでいった。

 言葉では表せない、あのどきどきする感じ。

 あれを味わえるバンドは、果たしてこのビラ紙の中に存在するのか?
 僕はあるバンドの求人ポスターに目を止めた。求めているのはギタリスト。結成時は比較的最近。ポスターに書かれている手書きの字体の雰囲気が視覚的に好みであったという、どうということない、たったそれだけの理由だった。
 変なところにこだわりがあるが、それ以外はかなり適当なのだ。

 「ねえ大助さん。このバンドって知ってる?」

 大助さんというのは、ここで働いている唯一の店員だ。学歴がなく、仕事を探すのに苦労したとかぼやいていた。髪は脱色していて、見た目三十代前半。

 「『ブルージーンズ』だろ?
ここに来るバンドで知らないとこなんかナーイよ。そのヴォーカルは中学ん時からここ通ってんの。いつもバンドがしたーいしたーいって煩い野郎だった」

 「学生なんだ」
 この趣のある字を書くのはそいつなのか?ふと思った。

 「そのヴォーカルだけな。ベースもドラムも、ワケアリ林檎だぜ」
 「なんなのその表現」
 僕は思わず苦笑した。

 「すこーし人より傷がついてるが、楽器やらしたら一丁前。まさに、ワケアリ林檎。俺はその方が好きだな。まあ林檎はなんでも普通に旨いけどな」
 「比喩は上手く使ってよ。てかブルージーンズってバンド名、だせぇな…」
 そういうと大助さんは大声で笑った。

 「気に入ったのか?」
 「バンド演奏聴いてないのに、気に入るも何もね…」
 「相変わらず上から目線な野郎だな〜。ま、なんと都合よく今日はブルージーンズの演奏があるんですよねぇ」
 「え」

その時は丁度訪れていた。僕は特に期待はなかった。ただポスターの字と、大助さんのユニークな比喩表現に導かれ——。

扉を開けると、ゴゴゴと爆音の予兆が広がっていた。