ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 回転と僕 ( No.8 )
日時: 2010/09/04 15:32
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

第三話   出会いの始まり −①



 まあ簡単にいえば、そのバンドの音楽は僕のドストライクであった。
 本当に一言で済ませられる、心から愛する音楽というのは本来あっけないほど単純なんだろう。

 たぶん、演っているのはオリジナルの曲だと思った。
 ヴォーカルの「彼」の声がすべての音に乗る。流れの先頭に立って。
 ギターの腕は多分、僕の方が上だと思うが、歌は上手い。ロック向きの力強い声だ。腹から出る声というのはここまで気持ち良いものだったろうか?

 ベースの姿を見た時、思わずぎょっとした。
 髪は貞子を彷彿させるように、顔を覆う。身体は骨のように細く、身長は180超はあるだろう。重い楽器を背負う肩幅は小さい。年齢不詳。しかし体型からして、男だろう。第一印象、一言で表すなら、こんな言葉がぴったりというのもおかしいが、これがベストだ。「きもい」。

 ドラム、かなりの大男。腕の膨らみからして、力強い音を出すのは頷ける。が、学生ではないだろう。オーラそのものに貫禄がある。ライトに照らされ、男の身体に現る、刺青。その迫力といったらこの上ない。

 このバンドで演れたら、最高だろう。

 淡々と思う。
 脳裏に浮かぶ、満足気な己の精神。
 心からの欲、妬けつくような渇き。
 体感し、得たい。
 欲しい、欲しい。あの舞台が。あの仲間が。
 
 演奏が終わった。
 ヴォーカルは最後、マイクに向かって小声で「ありがとう」と言った。
 素声で、高校生くらいだと分かる。ベースは相変わらず俯いたまま、さっさと舞台を後にした。