ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 破壊 ( No.1 )
日時: 2010/09/04 00:54
名前: りあ ◆WSXLTeBDMM (ID: A7lopQ1n)

...プロローグ

 蝉の鳴き声がうるさい。やかましいその鳴き声は、初夏の暑さをより暑く感じさせた。長い時間、地中で静かに今年の夏を待っていて、やっと外にはいだしてきた蝉達は、少しでも多く子孫を残そうと必死なのだろう。なにせ、残りわずかな命だ。
 初夏の日差しを浴びながら、小さな少女が犬を繋いでいる綱を懸命に引いている。おそらくペットの散歩かその辺りだと思われた。
「ねぇ、ラッキー、もう少しゆっくり歩こうよぉ」
 少女にラッキーと呼ばれた犬は、まだ大人になりきれていないゴールデンレトリーバーだった。いくら子供の犬といっても力は強い。
 少女の額に汗の粒が浮かんでいる。帽子をかぶってくれば良かったと今更だが彼女は後悔した。
「もういや。歩きたくない。疲れたよー」
 少女がその場にしゃがみこんだ。緩んだ彼女の小さな手から、犬を繋いでいた綱がするりと抜ける。とっさに犬が駆け出す。
 住宅地から少し離れたこの辺りは、昼間も人気が少なく静まり返っている。聞こえるのは蝉と時々だが赤ん坊のなき声くらいだろう。
 少女は泣きそうになりながら犬の後を追った。