ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 生ける屍 ( No.103 )
- 日時: 2010/10/04 20:58
- 名前: メルー (ID: itFkgvpJ)
【第24話】
「走れっ!!」
俺は全員に向かって叫ぶ。
この状況ではもう静かに脱出は不可能だ。
なら、音を立ててでも早く脱出するしかない。
みんなも俺の声とほぼ同時に走り出す。
そして、俺は血に濡れた由美に手を貸す。
「行くぞ!」
「…うん…」
由美が俺の手を取って立ち上がり、俺達はそのまま走り出す。
が、
「イタッ!」
由美が足首を押さえて蹲(うずくま)る。
「どうした?!」
「足首を…捻ったみたい。」
「動けるか?」
「……無理みたい。」
「…クソ……どうすれば良いんだ…」
「さ…に……て。」
由美が小さな声で言う。
「何て言った?」
「……先に行ってって言ったの。」
「そんな事出来るわけないだろ!!」
「私のせいなのよ!私が…私が…転んだりなんかするから……」
「誰にだって失敗はある!それに、今は反省より先に生き残る事を考えるべきだ!」
「無理よ!痛くてこれ以上動けないのよ!?」
「だったら……俺がお前の足の代わりになってやるよ!!」
「…え?」
「少し我慢しろよ。」
俺はそう言うと 由美の体を抱き上げる。
いわゆる お姫様抱っこ ってやつだ。
「!?!?」
「走るぞ!」
「え!?」
由美が混乱してるのを無視して俺は走り出す。
みんなは先に外に出ていて、脱出に使う車を目指して走り出していた。
俺が外に出た時のみんなとの距離は約八十メートル。
普段なら追いつけるかもしれないが、今は由美を抱いているし、何よりも狂人が障害だ。
だが、ここでじっとしている事は許されない。
俺は上靴のまま走り出した。
余談だが そんな俺の元に風が吹く。
寒い とか 強い とかそんな事はなかったが、今まで感じた風の中でも最悪な風だった。
理由は風が運んできたのは 血の匂いだけだったからだ。
名づけるとしたら 血の風 が相応しいだろう。
途中、南瀬先輩が俺と由美に気付いて一人で引き返してきた。
俺はその姿を見て安心した。
俺達は見捨てられてないと。
「大丈夫かい?」
南瀬先輩が俺に近づき尋ねる。
「俺は大丈夫ですけど、由美が足を捻ったみたいで。」
「……」
本人の由美は顔を真っ赤にして俯いている。
「肩を貸そうかい?」
「はい、お願いします。」
俺は由美を降ろすと、先輩と2人で運び始める。
「工藤君達は学園のバスで脱出する様に決めた。だから、あのバスまで頑張ればいい。」
先輩が、俺達を励ます様に言う。
肝心のバスまでの距離は百五十メートルぐらい。
工藤達はもうバスに着いている。
そして、如月先輩が木刀で窓を割り、そこから中に入りドアを開ける。
—七十メートル—
そして、沖野が運転席で何かを始め、龍宮は中に入って見張り、工藤と如月先輩は外で狂人が近づかない様に戦っている。
木刀のある先輩はまだしも、包丁一本の工藤は大した勇気だよ。
—三十メートル—
運転席で頑張っている沖野以外は俺達三人の姿に気付く。
中でも龍宮は窓から身を乗り出して喜んでいる。
—十メートル—
突如 バスにエンジンがかかる。
「成功しました!いつでも出れます!」
沖野の興奮した声も聞こえる。
「真!急げ!」
工藤の焦った声も聞こえる。
俺は気になって後ろを振り返る。
「ァァアア…」
「シャァアア…」
すぐそこまで狂人が迫っていた。
「急ぐよ!真君!」
「はい!」
俺と南瀬先輩はペースを上げる。
そして 俺達七人は無事にバスに乗る事が出来た。
—— バタンッ ——
工藤がバスの扉を閉める。
「沖野!出せ!」
俺が叫ぶ。
そして、沖野が頷き アクセルを踏もうとした時だった。
「半田……先生…」
龍宮の呟きに全員の動きが止まり、龍宮の視線の先を追う。
間違いなかった。
狂人が群れる校庭を、俺達が乗っているバス目指して必死に走るその姿は、
「半田っ!」
俺達 生徒を平気で見捨てた半田だった。