ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 生ける屍 ( No.179 )
日時: 2010/10/23 15:19
名前: メルー (ID: 51/AcAGl)

【第32話】

「みんな何かに掴まれ!」

俺がそう言うとすぐに バスが揺れる。


地震?


いいや 狂人をバスで撥ねているからだ。

ある狂人は遠くへ弾かれる。

ある狂人はバスの下敷きになる。

ある狂人はバスのフロントガラスにへばりつく。


すぐに 俺達の乗るバスは全体が血まみれになってしまった。

が 今はそんな事どうでもいい。

目の前の人達を助ける事の方が大事だ。


よく見てみれば 彼らも学校こそ違うが、同じ学生の様だ。

血に濡れたブレザーがそれを示している。


彼らまでの距離はあと五十程度。


「沖野!このまま行けるか?」

俺は 血で前が見えない と思って聞いてみたが、

「多分 大丈夫だよ!」

沖野にはしっかりと前は見えているようだ。

「なら 頼んだぞ!」

「うん!」


俺は運転は専門の沖野に任せて、他のみんなに話しかける。

「沖野がバスを彼らの場所まで近づけたら、闘える人は俺と一緒に外に出て彼らがバスに乗るのを手伝って下さい。」


俺の言葉で 南瀬先輩 如月先輩 工藤 が俺と一緒に彼らを助ける事になった。

実際は 龍宮と由美も手伝おうとしていたが、全員で外に出てしまったら 逆に邪魔になってしまうかもしれない。

それに 由美は足首を捻っているし、龍宮も武器持って闘える様な人じゃない。


だから、由美と龍宮には彼らがバスに乗ったら 彼らに怪我が無いか診てもらう事にした。


「そろそろ停まるよ!」

沖野が言う。

彼らとの距離は二十程度。


そこで 俺は気付く。

生存者達は三人。

男二人 に 女一人。

全員が一箇所に纏まって死角を補いながら狂人を相手にしている。


「…完璧な闘い方だな…」


思わず呟いてしまうほど見事だった。

三人で一番効率のいい形で闘っているのだから。

俺も父さんから一応教わった事はあるが、あそこまで的確に指揮は出来ない。

という事はあの三人の中の 誰か が俺以上の 使い手 だという事か。


     ……いや 誰か は見ればすぐに分かった。


他の二人がナイフの様なものや鋸で闘っているのに対して そいつは素手で闘っている。


黒髪のオールバック。

体の線は太くはない。

だが 制服の下にあるあの体はかなり鍛えられた物だろう。


あいつ一体何者なんだ?


そして 俺が一人で 畏怖 を感じている間に、


「掴まって!」


バスの中に沖野の声が響き


          バスは生存者達の近くに停まった。