ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 音符的スタッカート! ( No.10 )
- 日時: 2011/07/26 19:59
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 空気と馬鹿っぷる中なう。
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ちーちゃんと別れた後、私は、泥だらけの体と重い頭を引きずって歩いていた。行く先は、体育館裏。…………あ、ハイ。先輩からの呼び出しとかそーゆー非日常な感じではにゃいのです。私はあくまでも人に嫌われないように生きるというのがモットーな、蚊とは真反対の生き物なのです。
「とゆー訳で、今私はりりちーと向かい合っているのであった」
「訳分かんないっス」
陸上部所属である衣食りりるちゃんは、笑顔でそう言ってきた。実に爽やかな笑顔である。ついでに付け加えると、りりるは本名。平仮名。うーん、時代の差を感じるなぁ。たった1年の差だけど! それでも私よりピッチピチなりりたん! …………時の神様を連れてきて首を締め上げようと思ったなんて言えない。
「ねえりりるたん」
「何スか先輩、貴方のりりるたんはこれから外周するので忙しくなりそうなんですけど」
「ねえりるたん」
「人の話は聞きましょうよ先輩」
「ねえ、たん」
「最早りりるのりの字も無いっていうフリーダム!?」
ふぉっふぉっ可愛いのう、りりたんのツッコミは。そう思い、にんまりと満足気に微笑んでみせる。すると、りりたんは靴紐を結ぶために下げていた顔を上げた。先輩に対して相応しくない、呆れと焦燥の二つがとろけた表情。でも、そんな表情でも可愛いこの子は何なんだろうか。……か、神様は不平等のようですぞ。
「それにしても先輩、どーしたんですか? 先輩って受験とか受験とか大学に進むための取得しないといけないものとか色々あるんじゃないんですか」
「イコール?」
「受験勉強しろ高校3年生」
「ナイス本音だねぇ、りりる」
今日も彼女の毒舌は絶好調のようです。え、知ってる? でしょーね! 私も知ってた!
毒舌りりるーと呼ぶと、りりるは怒ることも呆れることも無く、靴紐の安定作業へと戻る。ちょっと空しい。どこか気まずい雰囲気のまま、数十秒経った。
しばらくして、りりたんは視線を上空へと向けた。プラス、短い黒髪をさらさらと揺らして、顔にかかった毛を掃う。長いまつげが、秋の夕空を仰ぐ。コンクリートに腰を下ろしているので、私はその様子を上から眺めることとなる。
やがて、りりるはぽつりと言葉を零した。
「ところで、本来机に向かっていないと可笑しいはずの先輩」
「何だい、尊敬すべき先輩に向かって堂々と喧嘩しかけてくる後輩よとりあえず顔貸せ顔」
「先輩って、まだ小説家目指してるんですか?」
ずどんっ、急所を突かれた! わたしはさいきふかのうなダメージをおった! ……元からだよばぁか。
とりあえず、曖昧に「にゅふふ」とにやけてみた。それに後輩は、道路で潰れているトマト的な何か(あえてはっきり言わないのがアタシ流ですのよ)を見たときのような、嫌悪感を露わにする。りりるたんは私の後輩じゃないのか!?
「……あー、うん。いちおーう、ね。だってホラ受験生じゃにゃいアタクシ? だっからーあんまり小説にかまけてる暇はないんじゃい! ……まーあ、たまに? 勉強の合間の息抜きとしてやってる時も無いことも無いかなぁなんて思っちゃったりしてねぇ」
にゃ、にゃんだいこの言い訳じみた言葉は(当社比びっくり度120ぱーせんつ)!
後輩の前じゃなかったら、前のように頭皮を掻き毟っていただろう現状況。でも私はその衝動を抑えて、目を白黒させてりりたんの反応を窺う。案の定、りりたんは深いため息をついて、頬杖をついて足を組んでいた。先輩の前で何3つも無礼事してんじゃい! と言う余裕は私にはゼロだった。
りりたんは、ちろりと横目で私を見て、聞く。
「いこーる?」
「ごめんなさい受験生の分際でしっかり小説家目指してます」
「でしょうねぇ…………」
おい勝手に私のネタを二番煎じすんなって(照れ照れしつつ)!
何このデジャヴ。まさか、この会話……さっきのちーちゃんとのものに似ているだって!? なーんーだーっーてーえー!
ふっ、だけど二の舞は踏まないさ! だって私は自小説家! 何で自が付くかって? 自称と小説家をかけたのさふふん!
「でもいーじゃん別にさぁ! 小説家目指したってさぁ、夢じゃんかぁ! 認めてくれよう!」
「はぁ…………夢ですか」
「それとも何さ、りりるちゃんはアタイの夢を認めてくれずにただの妄想だと鼻でお笑いになる気ですか! えぇ、何か言ってみろよおいっ」
りりるたんに八つ当たりしてんじゃねぇよ私。多分1時間後の私がこの会話思い出したら身悶えそうだなぁ、と感じて私は憤慨する。誰にってそりゃりりたんに。それが理不尽って言ってんだよばーろー!
りりるは私の怒りの言葉に、また溜め息をつくと、これから走るグラウンドの隅を見た。そして、りりたんにとっての小説家を、静かな口調で語りだした。
「小説家になろうと思うのは、夢じゃないです。だって、小説を書くってのはそれだけじゃ商売にならないじゃないですか。かといって、小説を書いてそれが売れるようになれば、小説家というものが職業と成りえるのか……まあそれは人それぞれですね、私のような善意ある第三者には考えもつかないことです。
小説家になるとはどういうことか。それは、万人に愛され、売れ。そして名を知られていき、何か大きな賞と名声が得て………………ようやく小説家になるという夢に到達できるわけです。
つまり私が言いたいことは、小説を書くだけなら、誰にだって出来るってことです。公務員やらコンビニの店員やら、何か確実に利益があるものと平行して、趣味として小説を書けば良い。私はなぜその道が先輩の残念な脳内に存在していないのか、非常に理解に苦しみますね」
ん、まぁそりゃそーですけども。
私がうんともすんともおいパンツ見せろよぐえへへとも言わないのを見て(当たり前だネ!)、りりたんはより一層呆れを含んだ物言いになる。
「私の職業は小説家ですって言うのと、私の趣味は小説を書くことですってのじゃあ、だいぶ違いと差が生まれるでしょう?…………きっと、今の時代に自分の好きな小説家や好きな小説……そんなのに感化されて、自分もなろうなろうって言ってる人には、あまりに無理な次元なんじゃないんですか。小説家って」
うぎゅ、再度何も言えなくなる。
私の逃げる道とか、言いたいこととか全部先回りされて、私を否定されてりゃーどうしたら良いりゃー……みたいな? 自分でも訳分かんないっス。
んー、まーさ。
とにかく、私は逃げ道を1つだけ確保しておく。
「りりりりりーたん」
「だからりりるって読んでくださいよ。……で、何ですか」
「私にとっての小説家っちゅー夢は、そんな簡単なもんじゃないんだよう」
「…………はぁ?」
日が落ちてくるのと一緒に、夏とは別の涼しい風が、私とりーたんの頬を撫で付ける。りーたんの疑問系な言葉も、その風にさらわれて行った気がした。
ふふん、そう返してくるのもまた一興。りりるにとって理解不能なことは、私にとって常識なんだからね! 小説家イコール当たり前イコールぐっじょぶだぜい。
「先輩って」
りりるが、私の方を向く。声には呆れが含んでいる……と思ったけど、含有成分は感嘆や驚きだった。
「ん、なんだーい? 愛しのりりるや」
「先輩は、やっぱどこかおかしいです」
それも私にとっちゃ、あーたーりーまーえーなのだ!
だから、言ってあげちゃう。
「今更かい」
秋ってのも、悪くない気がした。