ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

最後まで夢見がちなわたし4 ( No.119 )
日時: 2011/08/20 09:10
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 短く分割。









 体育館入場ギリギリの時間帯になってちーちゃんは教室に入ってきた。私の決意を揺らがせるような、いつもと全く変わらない姿。冬より寒いものはなーんだ、答えはちーちゃんですっていうなぞなぞが成立しちゃうぐらい、冷徹な表情をしながら席についた。
 本当に話すのは卒業式の後だ、と私は私で考えていたから、素知らぬ顔で私は自分の席から窓の外を見つめていた。窓から見えるのは冬の殺風景な景色。全体的に灰色ちっくな、寂しげな景色。たまにカラスが飛んでいるぐらいで、面白みも何もない。
 周りのクラスメート達からは、以前はうるさかった奴が静かだーとか、卒業でちょっとセンチメンタルなのかとか色々聞かれた。曖昧に頷くのみで、本当のことは言わなかったんだけど。

「この景色も、最後かぁー……」
「おぉう。はよーっす、松尾」
「何だよー、誰かと思えばレディ・キラーで有名なアンタかい」

 何気なく呟いた言葉に、隣でくっちゃべってた男子が反応してくるのが小気味良い。「えー、何お前、静か過ぎね?」「うっせ、ちーちゃんにふられたくせに」ぷんっと横を向いて、ちーちゃんの話題から回避しようと試みる。
 てか、何これ。さっきの岡川ちゃん(岡元ではなかったのじゃ!)にしろ、こいつにしろ、最後だからって私になぜ関わってくるんだ。最終回だけでも関わろうとするザコキャラかお前ら。マリオとピーチの結婚式、だけどブーケを受け取ったのはクリボー一家、みたいな。よし、意味分からん。

「うっわ、お前それまだ言うか!? ……良いんだよ、今は俺——別の超ッ美人な人の背中追ってるから」
「はいはい。脇役お疲れ様でーす」
「ちょおま! 会話もっと広げていこうぜ!? てか俺のこと脇役扱いすんな、一応お前と俺小学校から一緒だからね!?」

 ぎゃーぎゃーと喚く男子(名前なんて言ってやらねーしー)を尻目に、私はまた窓の外を眺めた。すると、廊下の方から声。

「おーい、もう並べってよー」
「うわー私絶対泣く、今泣いてる!」
「私もー! どうしよ、顔ぐちゃぐちゃになるわぁー」

 廊下の方へと流れていく皆の後ろを追うように、私も移動する。三年生たちは体育館に行くために廊下に並び、そのままくッそ寒い体育館へゴーした。やっぱり、数人はすでにぼろぼろ大粒の涙をこぼして真っ赤な顔をしている。これからすぐに卒業式なのに大丈夫かなぁ、なんてちょっと心配して。
 まもなく、式が始まった。
 式の間、色々なところからすすり泣く声がしていた。あのちーちゃんが泣いてたら面白いかも、なんてふと思う。
 この辺りについては特筆する点はない気がする。
 周りの子は瞳からキラキラ涙を大量生産していたようだけど、私はこの後のことについてばっかり考えてて、涙線がぎちぎちだった。朝、散々な目にあってむせび泣いたからかもしれない。すすり泣きの声が静かな体育館の中に反響していて、私はこの後について脳内ぐーるぐる。自分が名前呼ばれても、返事も立つのも数秒遅れたぐらいだ。しかも返事は声裏返るし、皆から微妙に笑われた! 最後の最後で何てこったいッ!
 
(ラストはカッコよくないって……主人公っぽくねーぇ!!)

 うがー、と妙に照れながら壇上へ。一気に視界が広がる。たくさんの視線を浴びながら、足元に注意して歩く。
 ちろりと視線を上げると、頭のてっぺんがエコライフな校長と目があい、苦笑い。体育館の中の冷気のせいで、唇の端がうまくつり上がらなくて難しかった。
 私の礼と等価交換されて手渡された卒業証書には、まぎれもないマイネーム。目の奥が一瞬熱くなる、けど、我慢。働いたら負けならぬ、泣いたら負けな気がする。

「……今まで、ありがとーございました」

 ——誰にともなく言ったお礼は、学校全体に向けてなのかなぁ。
 壇上を降りながら感じたものの答えは、あえて母校に置いておこうと決めた。

 卒業式が、終わった。