ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 音符的スタッカート! ( No.21 )
- 日時: 2011/07/26 20:03
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 「馬鹿野郎…………全裸は芸術であり、エ口スはそこにはないんだよ……」
誰かのために泣くことが、私は出来るのだろうか。
ここのところ、そんなことばかり考えている。そんなの考えても、実際、誰かが酷い目に会って自分でその様子を見なきゃ、何とも言えない。果たして、私は他人の傷のために自身の精神を削ることが可能なのだろうか。それとも、他人の傷を見て、嘲笑しながら傷口に塩を塗りこむこのが出来るのか。……むう、これは両極端な気がする。
「りりる先輩、今日もよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。半田さん」
同じ陸上部であるツインテールの後輩の半田さんが、義務的な笑みを浮かべた。ちゃんと敬語使えてるな、偉いなと感心して、私も同様の笑みを返す。と、一緒に先輩としてのお言葉も。
「じゃ、早く着替えて準備してきてね。今日はグランド走った後、100メートル走するから。急いでね」
「はい先輩!」
勢い良く返事をした半田さんの背中を見送る。私が今座り込んでいる階段の先には、陸上部の部室がある。だから私は必然的にうす汚れた階段から重い腰を上げることとなった。あー面倒。
「…………ぎゅーん、ぎゅぎゅーん」
好きなロックバンドの曲の中で、ギターの人が一番目立ってる箇所の鼻歌を歌ってみた。ひやりとした風が首筋を撫で付ける。10分ほど前からずっと、体育館の裏の階段で、私はスパイクを履いている。あ、うーん…………履いているっていうか、もう履いてるんだけど。何となく、この涼しさと静けさが蔓延した場所から離れられないから。だから、ぐだぐだとここにいるっていう感じだ。
「あ、そーいえば」
誰もいるはずのない空間へと、言葉を投げかける。当然だけど、返ってくるのはひんやりとした空気だけ。でもそんなの理解してる私は、更に言葉を続ける。
「今日は、松谷先輩が顔出すって……」
言ってたっけ?
疑問符を顔の表面に出さない程度に、芝居をしているみたいに、大げさに首を傾げてみた。空しい。しょうがない、私しかここにいないから。と、思いながら痛みを訴える背骨を正す。すると、体育館から響いてくる大勢の足音と、威勢のいい掛け声が、私を包んだ。心地よい。
「松谷先輩……か」
松谷先輩。3年生。私の年の一個上。今は……どうなんだろ、受験勉強してるのが普通なんだろうけど、あの人は小説ばかり書いてそう。先輩は、小説を愛してるから。先輩は、人への愛を小説だけに注いでるから。普通の顔立ち(中身の判断は決めかねる)なのに、中身は小説一直線だから、どうかと思うんだけど。
「ま、どーでもいいけど…………っと」
立ち上がる。膝がぱきぱきと声を発し、脳みそが浮遊するような感覚を覚えた。何度も結んだスパイクの紐を確認し、一気に今自分がいる階段から、地面へと飛ぶ。鳥になったように浮いて、足元が不安定、それで、だんだんと、下に地面が、あぁ、飛んだ。
「う、お、あ、あ、」
どぐしゃっと派手にバランスを崩して、着地。現在の着地点は、私の想像とはだいぶ離れた場所だった。だからちょっと不快になる。きえー!
「痛……」
たいして痛がっていないような、テンションの高さの欠片もない雰囲気を醸し出してみた。だけど、膝についた砂粒と足首の異常な痛みはそれを簡単にぶち壊す。幻想をぶち壊すどころじゃねぇぞコレ。幻想っていうかむしろ私の華麗なる着地を「やーいやーいお前の着地、おっばけやーしきー」と笑われた気分だ。…………どちらの言葉も、この世に存在する全てに関係ありません、と言っておく。