ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 音符的スタッカート! ( No.31 )
- 日時: 2011/07/26 20:04
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 夢十夜ぱねぇ
「う、うう……」
さて、痛覚のせいで思考がまともになったところで、もう一度。
「……わ、私は、誰かのために……泣くことが出来る、のっ?」
痛みが鼻に到達したのか、言葉につまった。
それでも、問い、問い、問いかける。そもそも、何でこんなこと考え始めたんだろう。私は何でこの疑問を持ち始めたんだろう。1年前までは、こんなこと無かったのに。…………1年前、彼女と共に歩む未来を望んでいた私には。
「やっほー、りりたん」
頭上から落ちてきた、第三者の声。うっせえ、こちとら足首と自身の運命について思考中じゃコラァ。いつもの衣食りりるなら、少しは不機嫌そうな表情をすることが出来ただろう。でも、私はこの声の主を知っていたから、本音を口に出すことなく、顔を上げることが出来た。勿論、似非の笑みを作って。
「どう、も。……松谷センパイ」
「うきゃー? 何で先輩に変なアクセント置いてんのよう? そんなに私の後輩であることが嬉しいのきゃいりりるたん!」
「ははぁ、分かりましたよ先輩。貴方に必要なのは思考力じゃない、常識だということが」
「素敵な褒め方ありがとねりりたん」
だから褒めてねぇっつってんだろが。
頼むから私の心中お察しくださいよ脳内花園女様。
グランドのうるさい連中とは裏腹に、静かで薄暗い体育館裏。受験生である先輩と、陸上部エースである私が相対するのには、かなり不釣合いな場所。
そこで定期的に、私と先輩はお互いの腹の探りあいを行う。何でするの、とか意味あるの、とか。そういう無駄な質問がある奴はさっさと消えろ。ただ、そいつは確実に、私と松谷先輩両方とは仲良くなれないってことを覚えておいて。
何でかって? …………対極な位置にいる私と先輩だけがこの腹の探りあい(または会話ともいうんじゃないかな)の価値を知ることが出来るからだ。
「どうしてこんなトコにいるんですか? 3年生の松谷先輩?」
「うわお、微妙な棘加減がまた何とも……じゃなく、ここにいるりゆー? それとも何で私の弟がブリーフ派からトランクス派に転向したかっていう、お話かな?」
「安心してください、先輩のような異常者とは違い私は健全ですよ。弟さんのお召し物よりも先に、先輩は自分の脳みそに何が必要で何が不必要か。そしてどのようにして当たり前という常識に転向するのか考えてください」
「ん? あ、う……。……ごめん、聞いてなかったわ」
「そこはガチで聞いてないってなんですか。こっちが恥ずかしいです」
「………………きゃ」
「テメェじゃないっつってんだろ脳みそ発酵先輩」
ホント何しに来たんだ、この人。
呆れつつも、その表情を窺う。笑顔だった、普通の。だけど、これがただの卵の殻の役割、ってことを知ってるから、私は油断しない。かさついた唇を舌を使い湿らした。喉がいがいがしてるけど、無視。断固無視。
「んー、実はねぇ」
先輩が視線を上空へと浮遊させながら、口を開く。やっとか、という脱力感と、何だ、という緊張感双方を伴い、少し焦る。
「……何ですか」と、視線を地面へと滑らして、次の言葉を促した。先輩はちらりともこちらを見ずに、空と話すかのようにして、話し始める。
「君の夢ってゆー定義? 持論? ……について、聞きに来たのさーぁ」
先輩の軽い口調とは真逆に、私は平常心という海にざわざわと波がたっていくのを感じていた。
「…………夢?」
先輩の夢は小説家だ、ずっと、前から。きっとこれからも。……ずっと揺るがないそれについて聞きに来た、だなんて。イコール、夢(小説関係)について、何か良くないことでもあったんだろう。うーん、小説サイトの賞を逃した、とか。これは無いか、先輩がまだあんな幼稚なサイトに固執してるなんて…………でも、有り得なくは無い、かも。
「…………とゆー訳で、今私はりりちーと向かい合っているのであった」
「訳分かんないっス」
嗚呼、どうやら探りあいは始まっているようだ。と、理解。そして実行始め。さあ始めよう、と脳内で悪役並のふはははっはー的な嘲笑をしてみた。だからもう始まってるっちゅーに。遅いっちゅーに。
「ねえりりるたん」
先輩が私の名を呼ぶ。……先輩、今日は何を探っていきますか?私の持論を奪っていきますか。私に愛情を教えていきますか。私の定義を崩していきますか。私に真髄を与えていきますか。
どれにしろ——————早く教えてくださいませんか。
(私がどんな人間なのか? 私が過去にしたものは、過ちとして処理されるのか、永遠として美化されるのか?)
(とにかく、私と真逆に位置する貴方から、私はその答えを得なくてはならないんですよ、先輩)
だから、私は貴方と言葉を交わそう。……時折、戯れの時間を経ながら。
「何スか先輩、貴方のりりるたんはこれから外周するので忙しくなりそうなんですけど」