ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 音符的スタッカート! ( No.4 )
- 日時: 2011/07/26 19:56
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
*
「ちーちゃん」
「何」
「また落ちちゃったぜ」
「……あ、あの小説の?」
「イエス」
「またか」
「イエス」
「………………」
「………………てへっ」
「…………あ、あの1年生こけてら」
「わー砂だらけで可哀想」
「しかも女の子。可愛い顔が土と汗と涙でぐしゃぐしゃじゃんアレ」
「うきゃー本当に可哀想だ」
9月っていうのは、まだまだ8月の暑さを残していると思う。しかも、蒸すような、より照りつけたり焼き付けたりというような表現が似合う暑さ。しかも今日の最高気温は38度。一応、秋なんだからさー。太陽も休んじゃえよー! と1人ぷんぷん怒ってみた。そう言うと、私の隣で日焼けに気を使っている三浦散子ことちーちゃんは、
「小説しか能がないアンタが太陽に文句言うな」
と冷たい視線で私を射抜いた。きゃん、こーわーいー。おどけて私は自分の体を抱きしめる動作をする。ちーちゃんはそんな私を見て、ニヒルな笑みを返した。わーかーっこーいいー。後輩にも先輩にもモテる理由…………アタイにはわかるぜ相棒!
「ってかさ、アンタさ」
「ふんふん?」
ちーちゃんの顔を見ようと横顔を盗み見る。向こうも私を見てると思ってたから、横顔を見たときに「ぎゃーアタイとアンタとの意思疎通できてないじゃんかぎゃー」と言おうかと躊躇した。が、やめた。なぜなら、日光が私の目を襲ってきたから。私にとって、昼間の太陽の陽射しは天敵なのよ。それに体育祭の練習と砂埃だらけのグラウンドが加味されるなら、尚更。
「いい加減、そうやってネットで小説投稿すんの、やめたら? むしろ小説から離れたら?」
「………………ぶげ」
ちーちゃんの冷血な言葉と共に、白んだ日光が私の心と目を貫いた。光は目に優しくない。そして、ちーちゃんの冷静な一言も。……い、言われた……今一番言われたくないことを! このちーたんは! 平坦に! さながら彼女の胸のラインのように凹凸のない声で!
「な、何でや!? ワタクシはそんな話をしてるのじゃなくってよ!」
「だってさ、アンタっていつも受賞しないじゃんか。……4年ぐらい前から、あのサイトに入り浸ってるのに」
「う、ぐ」
目の前をリレー選手(ツインテールの1年生)が通過していく。その際に盛大な砂煙をあげていった。もうもうと舞う砂の粒に、ちーちゃんは眉を八の字にして眼鏡で眼球をバリアした。それに対し私は、そのバリア女に痛いところを突かれたので、撃沈ちゅーなのである。うごっ、す、砂が目に入ったでザンス…………!
「とにかくさ」
土の湿る香り、あ、先生が水まいてる。いーなー男子、思い切りシャワーしてる。私も坊主頭だったらなあー。びっちゃびっちゃになるまで濡れ濡れな感じでわっほーいなるのになー。……以上、目の前のちーちゃんの言葉から逃げるための現実逃避でした。
「アンタって、小説家に向いてないよ」
ちーちゃんは、コンクリートにこびり付いた石灰を横目で見つつ、言う。どうでも良いって感じで。いつも通りに、氷のような冷気を孕んで。
「あ…………ぐう」
さっきのリレー選手(ツインテールっ娘)が、どろどろになった地面に足元を掬われ、転倒する。まるでその子みたいに、私の暑さでふやけた頭も、転げた気がした。そんな風に言わなくてもいーじゃんか、なんて茶化した言葉なんて、出てくるわけもなくて。
「……知ってるってば」
茹だった脳内で必死に搾取したのは、その思いだけだったとさ。ちゃんちゃん。