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Re: 音符的スタッカート!【りりたん編ひと段落】 ( No.40 )
日時: 2011/07/26 20:08
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: ……大丈夫だ、問題ない。

「あ、あの……貴方は確か、うりゅしばら、雅さんですよね? ぼ、僕知ってるんです! あのですね、祝賀パーティーで、噂しか聞いたことないんですけど、凄い綺麗で美人で凄いって聞いてて、あ、あれ凄いって2回も言っちゃったですね、いや言っちゃったですねって何ですかね、ていうか何で僕のミスを漆原さんに聞いてるんでしょうかね、ふへ、ふへ、ふへへへへへへ……あ、それでですね、あの、漆ば」
「…………ねえ、西条さん」

 しどろもどろで言葉を搾り出していく僕の言葉を遮り、そこで初めて彼女は唇を動かした。今でもその様子は覚えてる。彼女の艶やかな唇から、やはり素敵な小鳥のような囀りが……! と僕は一人感動していたからだ。正直今思い出すと恥ずかしい。中二病どころじゃ済まない。
 あ、補足。そういえば彼女と僕が初めて会うということで、彼女の父親の友人、また僕の上司(つまり彼女の言う西条さん。……幾つ彼は会社を経営していたんだろう……)も立会っていた。よし、まず何故立ち会っていたのか考えてくれ、昔の僕…………!

「この人今……ミステリーとホラー、そしてラブロマンスを得意としてるんだっちゃ、笹宮因幡だっちゃ、って言ったのかな」
「………………そ、そうだね雅くん」

 いや、僕そんな言い方はしてないっていうかそんな語尾はつけてながっづ嗚呼アアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
 轟音。
 
「それは可笑しいんじゃないかなーって思うんだけどねええええええええええ西条さああああああん」

 目の前を、何か、赤いものが、鼻先を、通り過ぎていった。反射的に、その赤い何かしらを後数mmで避ける。飛びのく。もう一度瞬き。気付く。彼女の足元に。
 彼女の足元には、赤。そしてそれは————真っ赤なヒー、ル? え、ってことはアレだよね。さっき赤が見えたってことはアレだ。つまりこの人は思い切り俺に足蹴りしたってことっていうか西条さんが大変なことになってた。

「あひ、ひゃ、ひゃ、ひゅあ、あおあ」

 目の前の憧れの彼女は、気付けば目上の人間の口に片手を突っ込んでいました(真顔)。

「あっひゃ、ひぃ、ひゃいえ、ひゅええ」
「…………さ、西条さ……!?」
「ふぅ」

 一息つくな! てか人の舌を片手で掴んだまま安心するな! 僕は両方のツッコミを放棄したまま、ただただ彼女(元・憧れだったネ!)の突然の変化に目を白黒させていた。しかし彼女は許さない。片手で西条さんの蠢く舌をがっちり固定し、僕の方へと首を動かした。

「……さーて、笹ラムちゃん?」
「ね、ネタと本名が入り混じってます……」
「そう? じゃー何ラムちゃん?」
「さ、笹宮因幡です」
「ほー、因幡。漫画に出てきそうな名前だね、気に入ったっちゃー」

 にへら、と先ほどの表情から一変。彼女は締まりのない笑みを浮かべると、どこか絵空事のように、他人事のように話し出した。……あ、ラムちゃんには触れない方向で。

「実は私はねー、君が凄い売れっ子のボーイズラブ小説家だって聞いたからこの担当引き受けたんだよんねー」
「……え、ぼー、ぼーいず、ら?」
「うんそー、ボーイズが愛するのさ」

 ぎゅえっ、と西条さんの瞳が濁りを増していく。
 頼む、それ僕の上司。君のお父様の友人。もっと愛を分けてあげて。もっと彼の対応に配慮を、配慮を……! とは言えず、ピュア(自称)だった僕は聞きなれない単語に首を傾げていた。彼女はにこにこと満面の笑みで、さらに言葉を続ける。

「だからねー、この展開は予想外なわけなんだよねーうんー。こっちは趣味を分かち合える人と愛を語らいつつうはうは生活を夢見てたんだけどー、現実は違うしー? 実際はチェリーな新人ベーコンレタス何ぞな小説家だしー」
「ちょ、チェリーって! 失礼な!」
「違うの?」
「……話の続きをどうぞ……」
「ふふふ、分かったよい」

 憧れの羨望から本気の殺意へと変わった瞬間がこれでした(若干涙が塩辛いです)。
 僕の握り締めている拳が震えているのにも気付かず、ようやく彼女は西条さんの舌から手を離した。ぬちゃり、と唾液まみれになった彼女の右手。プラス、ぐったり、と膝から崩れ落ちた西条さん(白目がち)。
 彼女は唾液で汚れた片手を、虚空に翳した。