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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 音符的スタッカート!【僕編すたーと】 ( No.49 )
- 日時: 2011/07/28 23:15
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: …… や ら な い か ?
「私は小説家を育てるって仕事、まあつまり担当なわけよ、分かる?」
ぬらぬらと光る唾液の跡が、白い彼女の手を卑猥な雰囲気に仕立て上げている、と考えているのは僕だけだろう。5年前の僕……とは言っても現在の僕とは対して変わってないんだろうけど、とにかくその時の僕にとって、自身の仕事について語る彼女は、ひどく儚く、美しいものに思えた。
形の良い薄桃色の曲線が、彼女の声と共に動かされる。
「私はこの仕事を誇りに思ってる、と同時にね……私は必ず、引き受けた仕事は全力で全うしなくちゃならない、って考えてるんだなぁコレが」
僕の様子なんて気にしていないのか。彼女から、滑るように言の葉が零れていくのを、僕は無言で見守っていた。いつもは人が蠢き、騒々しさをかきたてているロビーも、僕と彼女の空間では無意味で。僕と彼女2人だけは、その場では時が止まっているようだった。
「だから、まぁ、つまりアレだね」
口角を吊り上げて、彼女は僕に向かって右手を差し出す。怒りも不快さも苛立ちも含まない、笑顔で。その行動が何を意味しているかなんて、言わなくてもわかる。
「よろしくね、笹宮因幡くん」
爽やかをそのまま具現化させたような声は、紛れもなく僕の名を紡いだ。それがたまらなく嬉しくて、僕はつい心臓が高鳴る音がうるさいと感じていた。震える左手を胸の位置に水平に上げて、一時停止。
……やがて、僕はようやくがちがちの体を弛緩させ、彼女よりも数十倍見劣りのする微笑みを返して、言った————
「これ、どうぞ」
————水色のハンカチを手渡して。
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