ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

試走中(殆)なわたし1 ( No.63 )
日時: 2011/04/03 22:46
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)










 大問3の、括弧8……分かんない。
 さっき数学の問題集を前にして頬杖をついた手を、ノートへと置いてみる。ノートに置いた手はじっとりと汗をかいていて、手汗が少し付着して鈍い光を放った。部屋の中の空気は肌寒いのに、シャーペンを握っている右手だけはぬるりとした熱さをもっていて、何かこう、気持ち悪い。

 「…………息抜き、しよっかな」

 独り言を呟いてみた。孤独の2文字が部屋の中を占めているので、もちろん答える人なんていない。無意味な行動をしてしまった自分に呆れの意味も含めて、大きく二酸化炭素を吐いた。

 (休みなのに、何で私は机に向かってるんでしょーかね)

 あ、駄目だわこれ。集中途切れた。
 何かを悟ったような表情で呆気なく数学に白旗を揚げた衣食りりるは、流れるような動作でベッドに放ってあった自分の携帯を手に取った————っと。小説にあきりたりな表現で彩られた文章で、私の行動はいとも簡単に表すことが出来た。

 (……そうだ、人間の行動なんてこんな簡単な文章で表せる)

 携帯の画面を開くこともだるくて、私はしばらく携帯を手の中でころころと揉みしだいていた。こうやってたら、何かツンデレ系携帯から天然やわらかいこんにゃく系携帯に変わるんじゃないかなーなんてことを考えつつ。まぁ、それは私が男になるぐらいありえないことなんだろうけど。

 「うだー……疲れた……単純な計算してただけなのに……」

 カバーも何もかけてない羽毛布団と、肌触りが良いというテーマのベッドカバーなのに良すぎて表面がすれまくりのベッドに、思い切りルパンダイブした。羽毛布団の悲鳴を聞きながら、ひんやりとした毛布につつまる。おもちに包まれるあんこの思いを味わった。

試走中(殆)なわたし2 ( No.64 )
日時: 2011/04/05 08:49
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)

 (あ、そうだ)


 天から変な電波を受信したのか、なぜか私の頭の中にとあるサイトが思い浮かんだ。仰向けの姿勢からごろんと横に転がってうつぶせのポーズになる。突如天と地が逆さまになったので、私の動きに脳みそはついてこなかったらしい。ちょっぴりの眩暈。


 「…………。あー、これだこれ、このサイト」


 よかった、まだお気に入りサイトに登録してた。
 あってもなくても自分の人生には関係ないようなサイト。だというのに、そこにあることに安堵する自分がいた。何でだろう。変な安心感を胸でとらえていることに疑問符を浮かべながら、私はサイトをじっくりと見る。
 サイトのタイトルはよく分からない。みんながみんな色んな呼び方をしているから。本当のタイトルはあるんだろうけど、今飛び入り参加の私にはそんなのどうでも良いわけで。マスコットキャラクター的な小さなひよこが、無機質な瞳でこっちを見つめていた。


 (とりあえず、雑談とかなら知ってる人いるかな。……来るの半年ぶりぐらいだけどね)


 外では、風がぴゅーぴゅーと風情というよりはヘビーメタル寄りの音楽を奏でている。寒そう。


 「んむー……ぜんッぜん知ってる人いないんですよねー」


 雑談掲示板の最新更新スレを眺める。荒らしだとすぐに分かるような釣りスレや卑猥ちっくなスレもあるし、いかにも古参ですって感じのたくさんレスが積もったスレもある。小学生のような人もいれば、明らかに大人にみえる人もいる。これを沢山の人と交流できて良いと感じるか、マナーを知らないガキやニートがうじゃうじゃいて鬱陶しいと感じるのも人それぞれなんだろうな。


 (とりあえず、適当にスレでも建ててみるか。暇だし——)


 ついでに、数学の大問3の括弧8分かんないし。
 自分の能力の無さに妙な言い訳をしていることに気付くけど、だらけきった私はそれを無視する。携帯を両手で持って、かちかちと新しいスレを建てるためにボタンを押す。