ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

KENKA☆なわたし2 ( No.88 )
日時: 2011/07/10 16:44
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 誰かが見てくれてることを、願って。

 ちーちゃんと喧嘩したこと、ゼロ。ちーちゃんと言い合い、もゼロ。ちーちゃんに一方的な罵り……は数回。でも全部私がへらへらしてたら呆れて許してくれた。私は小さい頃からのんきでぐーたらでとろいから、てきぱきしてる学級委員長タイプなちーちゃんは、呆れる→でもしょうがない→手伝ってくれるっていう感じで、上手くはいってたようなそうでないような。
 そもそも、ちーちゃんと私が今まで仲良く付き合ってこれたのが不思議なぐらいだ。ちーちゃんは真面目でこつこつ派、私はだらだら不真面目派だし。それでも何とか付き合えて来たのは、ちーちゃんの、私に対する……うーん、諦めというか、何というか。
 そんな、悶々とした考えを振り切って、愛するパソコンに向かって一言。

「私がさぁ……小説書いたら誰かを傷つけんのかな?」

 ——私が小説を書けば誰かが傷つく? んにゃ、そういう大規模なことは、無いと思うけど。
 だって、そんなの、普通だったら絶対ない。だって、私はネット上でもリアルでも、“そこにいたらそこにいる人”とか“視界には入ってるけど、話はしない”って感じのタイプだし。そもそもネット上で今小説書いてても、何か敵対心ばりばりっぽく見えるのか、何にもコメント無いし。雑談もしないし。

「っはは。自分を蔑んでいくネガティブな自分、おっつかれ様でーすッ」

 きゃっはー、と叫んでベッドにダイブした。鼻が布団の表面にこすれて痛い。羽毛布団はその柔らかさに反して、冬の外気により乾いた肌を容赦なくこすった。ちりちりとした痛みがそこに生まれる。
 ————さて、ちゃんと少し時間経ったよ、ね。

「さっきのうましか男……ちゃんと返信してくれた、かなっと!」

 腹筋をするように、腹の筋肉を駆使してベッドから起き上がった。受験勉強ばかりで運動不足が目立つ私の身体は、それだけで悲鳴をあげる。ぎゅうぎゅうとふくらはぎの辺りに圧迫されているような錯覚を覚える。パソコンはぼんやりとした光を部屋内に振りまいていて、薄暗い室内に反して目が少し痛い。マウスを握ると、案外冷たくなっていて、びっくりした。


  Re: 愛って何ですか( No.8 )
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:あれ、もしかして小説書いてる方じゃないですか?


「…………はぇ?」

 ばっ、と急いで口元を押さえる。あまりの驚きについつい疑問符が零れ落ちたっぽい。
 ——え、何でこの状況で私が小説書いてるかってことを? てか、え、何で、何でサイトの底辺にいる私のこと、を? 知ってる、のよ?
 たくさんの疑問の欠片が脳内でうごめいて、何だか気持ち悪いような、合点がいかないような不整合さ。とにかく、その気持ち悪さを消し去るために私が出来ることは、キーを打つことだけ。緩慢な動作で、うだうだとキーを押す。


  Re: 愛って何ですか( No.9 )
 名前:小説仮
 コメント:
      そうですけど。
      今は関係無い気がするんですけど、どうでしょうか。
      てゆーか。私は貴方に皮肉をプレゼンツしたつもりなのに、陽気ですねぇ。まだ春は先だっちゅーに。

   Re: 愛って何ですか( No.10)
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:いやー、突然失礼しました。貴方の小説を読んでいる一人で、初めてお話(?)したので、ついついw
      皮肉だったんですか? いつも彼女にそのぐらいのこと言われてるんで、気付きませんでした(苦笑)
      んー、何というか。貴方は、小説通りの人っぽいですねぇ。だからあの小説ですか、納得ですw


「わ……わっけ分かんないべーぇ。ばっかにしてんのかよーぉ!」

 うだー! と四肢を広げて威嚇行為をしてみた。空気の生温さが脇やら服の裾から侵入しそうで、一瞬でやめたけど。
 何なんだろう、この人は——唇を指で触りながら、相手のコメントをまじまじと眺める。私の小説を読んでる人なんて、初めて見た。てか新発見って感じだ。嬉しいはずなのに、今の妙な状況じゃぁ嬉しいとかナッシング。

「……小説通りの人っていうのは、つまり、あの破天荒な小説の主人公と私が同じっぽいってこと?」

 イコール、馬鹿にされてる?
 …………私よりうましかっぽい人にぃ? えぇー、まじでぇー? ——頬に引きつりを感じた。イライラする。受験勉強で母に叱咤される時よりももっと追い詰められるような。心がただのストレス加算機になっている気がした。
 

  Re: 愛って何ですか( No.11 )
 名前:小説仮
 コメント:
      ……馬鹿にしてるんですか?
      こっちは頑張って書いてる代物を、そんな風に言われたくはないですね。
      少なくとも、悪口言ってもらうつもりで書いてるんじゃないんで。


  Re: 愛って何ですか( No.12 )
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:あ、そういうつもりじゃないんですよ? 僕、貴方の小説好きな方ですし。
      描写も会話も個人的には好きなんですけど、何でか評価されてないっぽいですね。
      何となく雰囲気的に分かりますけど。
      
  Re: 愛って何ですか( No.13 )
 名前:小説仮
 コメント:
      評価されてない、ですか。散々現実突きつけてくれますね。
      自分なら私が評価がされてない理由が分かる、みたいな感じですけど。傲慢ですか?

  Re: 愛って何ですか( No.14)
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:すみません、言葉が過ぎましたかね。
      色々言ってますが、何となくは分かりますよ? 僕も小説を業としてる方々の端くれですし。
      うーん……小説仮さんの小説はこう……
      曲に例えると、『スタッカートだらけ、スタッカートオンリー!』な感じなんですよね。

  Re: 愛って何ですか( No. 15)
 名前:小説仮
 コメント:
      ……はぁ、スタッカート?
      何ですかそれ。

KENKA☆なわたし3 ( No.89 )
日時: 2011/07/26 19:51
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 誰かが見てくれてることを、願って。

 無意識のうちに、画面にのめりこむようにして向こうのコメントを見つめていた。眼球に光を纏った文字がちかちかと巡り、脳みそを抉る。初めて出会えた私の読者。他の人の小説でよく見る『読者』というものは、たいてい世辞を述べるはずなのに。だというのに、今、私の小説が好きだと言った彼は、私の小説の弱点を突こうとパソコンの前にいる……はず。
 私の小説についてもっと触れて欲しい、だけど弱点はつつかれたくない。相反する思いは、私の鈍った心をずくずくと揺り動かす。
 ——スタッカートって、確か……音楽でよく出る、楽譜についてる記号……だっけ? うーんと、意味は……。
 小説サイトを一旦置き、中学の音楽の教科書を引っ張り出してきた。埃の香りがする教科書をぺらりと開き、音楽記号のページを捲る。あ、あったあった。


  Re: 愛って何ですか( No.16)
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:はい、スタッカートですw
      貴方の小説は……こう、全力で伝えにいっている感じなんですよ。
      つまり小説の構成でいうと、一番読者に伝えたいところが、常にぽんぽんと出てるんです。
      まるで、常にスタッカートがついた音符が並んでいる、一つの曲のように。
      曲を書いた本人は、スタッカートがある、自分の勢いのある曲に満足している。
      でも、あえて日常生活でそのスタッカートを表現しようとするから、非日常を求める読者には、わからない。
      ちょっと10分ほどROMります、失礼(д`;)


 息が、止まった。私の呼吸音が聞こえなくなった室内は、暖房の音がゴォゴォと唸りをあげていて、若干うるさかった。心臓がばくばくと音をたててうるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさ——

「——ッるせーんだッつーの!」

 つい叫んでしまった! だけど後悔してない! だってイライラしたんですもん!
 何なんだこいつ、頼んでもないのに(いや疑問形で返しちゃったけどさぁ)、勝手に批評して。読者という立場を上手く利用して、ぐちゃぐちゃの心にまた刃つき立てて。ちーちゃんと喧嘩したという絶望感にプラスされるのは、第三者からの小説のアドバイス。やばい、とじわり涙が瞳の端ににじんでいるような気がした。気がしたっていうのは、単に泣いてる自信がないから。
 私は無我夢中で、網膜にその言葉を焼き付ける。そして言葉を打つ。私の小説が。誰にも評価されずに、だけど一生懸命描いてきた小説が……こんなところで。愛とか愛とか愛とか! ほざいている連中の前で! 晒し者にされたくねぇっつーの! 怒りは私の指の動きを鋭くさせる。


  Re: 愛って何ですか( No.17)
 名前:小説仮
 コメント:
      スタッカート、良い例ですね。ロマンチック過ぎて砂糖工場開けそうです。
      そこまで言った彼女(笑)持ちの、あなたに言いますけど。
      ただの日常小説の、何処が悪いんですか?
      自分の考えを全力で伝えるのが悪いんですか?
      私は私なりの小説を書いているだけですっての。
      それとも何ですか。
      ファンタジー系ばかりの小説の中じゃ、私の小説はおかしいですか。
      異質な小説は、消えた方が良いとでも?


 最後の一行を書き込んだ瞬間、心が痛んだ。心が、眼球が、喉が、耳が。一斉に鈍痛を訴えた。心の傷をべりべりと広がり、眼球が文字から逃げようとぎゅるぎゅると這いまわり、喉がからからと干からびていくような錯覚に溺れ、耳がわんわんと見知らぬ誰かの罵詈雑言を聞こうと電波を発する。
 ——もしかして今、私は自分自身に対して一番してはいけない、言葉を、自分で言ったん、じゃ?

「…………っ、つうっ……」

 胸が、ほんと、にいったい。きっとこの痛みは、決して体内なんていう科学分野の中で起こったものじゃなくて。私の中、の、『小説が大好きなわたし』を貫いた痛みなんじゃないかな、なんて。っはー! 二重人格とかアレですね、中二病の極みですよ奥様! ……駄目、だ。何か全部が生傷にしみて、この世の言葉が全部私に向けられているような気がして、テンションまじへこむ。生傷にマスタード、ケチャップはお好みで、みたいな。
 私は、私の中の本音を自分でさらけ出してしまった。自分の小説が評価されないことへの不満を。自分の考えが理解されないことへの辛さを。私なりの頑張りを『他人との馴れ合い』で汚された恨みを。自分の小説はもしかしておかしいんじゃないかという不安を。……このサイトの中で異質である自分は、消えちゃえば良いんじゃないかなんていう——誰かに否定してほしい、悲しみを。

「返信、きたかな……」

 数十分ぐらい、ぐるぐると自分の中で自問自答していたように思える。エアコンから流れてくる風は、依然生ぬるい。いっそのこと外へ全裸で出れば、暑いのか寒いのかはっきりして丁度良いんじゃないかな、なんて提案は世間の目という超重要なもので掻き消されました。てへっ(舌を出しつつ)。……いかん、本気で自己嫌悪しそうな行動をしてしまった。反省せねば。
 リアルタイムで話をしていたせいか、返信は早かった。プラス、私の脳内ぐーるぐる期間もあったせいで。私のたくさんの質問や苛立ちに対して、向こうはどう答えたんだろうか。好奇心がわくわく、胸はおどおど。おどおどは踊るの略ではなくおどろおどろしいの略です。……おどろおどろしい胸だからって、ひ、貧乳じゃねぇですよ。

KENKA☆なわたし4 ( No.90 )
日時: 2011/07/28 22:47
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 誰かが見てくれてることを、願って。

「とまぁ私の胸についての言及は避けることにして、と」

 マイナスな気分のまま、私は例の愛って何ですかのスレをクリックした。私が返信(という名の問いかけ)をした後には、空気が読めているのかいないのか、何人かが愛について言葉を残していた。愛なんて信じられないものだと明らかにおら中学二年生だべさみたいなことを呟く人もいれば、至極真面目に答えて他の人から失笑を食らってる人もいた。それでも、私の小説や私自身について怒ってくる人はいなかった。果たしてそれが彼らの優しさからなのか、臭いものには蓋さえもしないという信念の現れなのかは——……まぁ、仲間意識の強い彼らに一任しとく。
 まぁ、怒りのコメントの代替として、だいぶヘンテコな“彼”からの返信が待っていたんだけれど。

「……っえ、ええ」

  初めの一行を目にする前は、また喧嘩になってしまうのかなと思った。別に喧嘩は売っていない、勝手な妄想をするなと、向こうが怒るのではないかと、びくびくした。マウスを握る手が震えているような気がして、スクロールバーを上手くクリック出来なくて。つま先の冷たさが、まるで凍ってしまったぐらいにひやりとした。
 でも、次の文章を読んだ、瞬間。

「う、う……うぅ……」

 私の胸の痛みは、ぼろりと——形を無くして崩れていくように。まるで、波にさらわれてゆく砂のお城のように。
 ほろりと何かが胸の内から流れ出す。


  Re: 愛って何ですか( No.22 )
 名前:某小説家@執筆中あんd◆a6sL9adSe
 参照:&、彼女といちゃつき中じゃああ(
 コメント:でも、僕は、そんな貴方の小説が好きなんですよ。
      きっと、散々なこと言っておいてこいつは、と思われるかもしれないんですが;
      僕は別に、ファンタジーより日常の方が好きだとか、日常には面白いものがないなんてことは思いません。
      でも、非日常という枠で伝えられることと、日常という枠で伝えられることは、全く別の意味を含んでると思うんです
      よ。
      ……みんな、日常に生きているせいか、ふとした大切なことや意味のあることを気付いた振りをして、見飽きたからと
      非日常へと向いてるんじゃないんですかねw?
      大切なことををみんなの目の前にかざして、それで「すごいだろ!」って言う人は、異質ではありませんよ。
      ただ、他の人とは着眼点が違うだけですww良い意味で、ですがw
      だから、日常について本当に理解……いや、気付いてくれる読者が現れてくれるまで。
      あなたには、あの小説を続けていてほしいですね。
      あなたの小説の読者である、僕からの言葉です。
      じゃあ、仕事があるんで、今日はこれで。

      P.S.彼女(笑)についての説明を詳しksあdksだk
      

(……ばっかじゃないか……)

 マウスを握る手が震える。さっきまで震えていたのとは、また別の理由によって。何なんだこの思い。目がじわじわと熱くなっていく。喉から零れそうなのは、痛みではない。泣き声だった。それでも泣きたくなくて、必死に飲み下す。乾いた喉は必死に声を絞り出そうとしているけど、こみ上げてくるものが何かが分からなくて、何も言えなくなる。この感情が嬉しいなんて、絶対に認めたくなかった。最後まで自分の心に篭城していた私の、最後の強がりだと知っていたのに。
 ぐずっ、と鼻を盛大にすすって。私は、今まで成長を見守ってきてくれた部屋の天井を見上げて、決心した。

「よし、決めた」

 ——某小説家さん、サンクスユーだよ。
 私は誰にも聞こえない謝礼を、本名も知らない彼に送る。電波を受信してくれたら、良いのにねー。えへえへと笑う今の私は、何かを吹っ切ったように楽な感情が芽生えていた。今までとは違う、諦めとか放棄とかじゃない。本当に、純粋な充足感。決して常日頃読んでくれる読者がいる人には分からない、孤独ゆえに誰かから気まぐれのコメントを貰えた時の、嬉しさ。
 両手に力がみなぎる。うずうずと疼くこの双の手は、小説を書くためだけにキーを打つ。私だけの小説を、描くために。

「……もし、私のことを理解してくれる人が、この小説を書くことで現れてくれるのなら」

 言葉に表して、私は実感する。誰かから貰った言葉は、こんなにも力を与えてくれるものなのだと。
 スタッカート結構、異質結構だ。今まで臆病にぶるぶると震えていた結構という言葉が、自分から明るみへと出てきて、自身の存在を誇示する。そうだ、もっと堂々と自分の背筋を伸ばしてろ。私は私の小説を、それで良いじゃないか。戦争になってようやく分かるような大切なことは、私には要らない。誰かを傷つけることで知る悲しみなんて、文章にしたくない。
 ——私が、小説が大好きな私が、書きたいことは?

「私はそれを、リアルにも適用してやるっての」

 何も、小説を通して伝えられることはネット上のものだけではないはずだ。じゃあ、私はそれを現実に無理矢理通用させる。小説が私という個人を表すなら、小説を見せることで私は私の存在を理解してもらう。例え小説なんてと嘲られても、私はしっかり前を向いてこれが私だとかっこつけて笑ってやる。面白くないと跳ね除けられても、底辺中の底辺で、諦め悪く、他人から見れば呆れるほどの、意味の無い頑張りを。
 椅子から立ち上がり、私は学生鞄をまさぐった。高校三年間で使ってきた、また後数ヶ月はお世話になるであろう鞄はくたびれていた。だけど、茶色い光沢は入学当時と変わらない、いつも同じ光を放っている。鞄の中から携帯を取り出す。そして、彼女の電話番号にかける。コール音が八回ほど鳴り——今日は諦めようかと思ったその時、彼女は電話に出た。

「……はい、三浦散子で————」
「————ちーちゃん、お願いがある」

 しょっぱなから、すぱっと言い切る。電話の向こうのちーちゃんの表情がすぐに想像できた。いつもみたいに眉間にしわを寄せて、美人のくせに可愛くない顔してるんだろーなって。
 やれやれという風に、ちーちゃんがぼそぼそと言葉を紡ぐ。

「…………私とアンタ、今喧嘩的なことしてなかったかしら」
「うん。でも、それでもお願いがある」
「………………何」

 長い沈黙の後、ちーちゃんは嫌そうに訊いてきた。溜め息が含まれていたようにも思える。私はちーちゃんの言葉を耳にしたうえで、一度黙った。すぅ、とエアコンの分厚い空気を吸い込む。肺には温かい空気が満ちて、私の言葉を出すのを手助けしてくれるようだ。さぁ、こっから勝負だ。大学受験をしながら、私は曲を紡ぐ。それは大変なことだろうけど、でもそれは彼女に私を理解してもらうためには必要不可欠なことだ。
 やがて、私は真剣に言い放った。

「私のスタッカート満載の曲、聴いて欲しい」

 始まりなんて、いつも唐突だ。
 ねぇ、そうじゃないかい? ちーちゃんや!