ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- KANKA*な私1 ( No.92 )
- 日時: 2011/07/29 23:32
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 一族滅亡☆キック
『りりるちゃんと、友達になりたいんやけど……』
少し、地元の方言が入り混じった言葉で告げられた希望。彼女の瞳には真摯な光が灯っていたから、私は笑顔で良いよと言った。すると彼女は嬉しそうによかったと笑ったから、私たちはまた嬉しそうにバスケの後片付けを始めたのだった。今でも、彼女のあの笑顔は鮮明に覚えている。
(でも、友達になりたいという意志を伝えた彼女の——あの違和感は覚えてる)
——友達って、いちいちなるって言うものだっけ? ……それも高校にもなって。
どこかおかしいような気もしながら、私は照れくさそうに彼女に笑いかけたのだった。
(……てか、この記憶って……)
衣食りりるが高校一年生——まだバスケ部に入部していた頃の、私の記憶だ。……記憶というよりは、トラウマに近いのだけれど。
中学と似ているようで似ていない高校というシステムは、友人と私をクラス分けでばっさりと別れさせた。友好関係が広い友人と、中学時代おとなしく過ごしていた私にはやはり溝があり、友人はすぐに他校の友人関係を築き上げたけど、私は何となく学校に馴染めずにいた。俗にいう、浮いているって奴だ。
——とにかく、友達がいないみたいに思われたくないなぁ……。
女子特有の周囲の視線が気になるという理由で、バスケ部には入部した。中学時代は陸上をやっていたこともあって、高校ではそれにボール遊びが加わったバスケをやれたら良いなぁと淡い期待を抱いていたのだ。陸上は走るだけだけど、バスケは何か注目されてるっぽいし、かっこいい。あわよくば、友達も欲しい。浅はかな理由だった。
(ほんと、浅はかだったなぁー……今更、ですけど)
バスケの神様には私の魂胆が見え見えだったのか、派手な女バス集団の中では、静かな私はやっぱり浮いていた。むしろ、余計に際立っていた。私のような地味でおとなしい子と、堂々と片付けなどをサボるような派手な子たちに。溝は深かったということだ。先輩たちは先輩たちで人間関係で問題があるらしく、しょっちゅう誰か一人が孤立していた。あーしなきゃグループを保てない奴等なんだなぁと、どこか納得というか呆れていたような気がする。相手先輩なのに。
そのせいか分からないが、入学式からしばらく経ち、体験入部。そして本格的に入部し新クラブ始動! ……ということになった時、私は先輩からしばらくきつめの対処をとられていた。他の子みたいに媚を売って「先輩のリストバンド可愛いー!」「先輩まじそれ受けますぅ」と笑ってれば良かったんだろうけど、人見知りが激しい当時の私には無理だった。自分が先輩となった今じゃあ、後輩にきつくあたる理由も分かる気がするけど。この立場は傲慢さがアップするだろうし。
結果、余計にクラブ内では一人ぼっちになった。まぁ良いか、とその時は楽観視していたけど——内心、結構しんどかった。親は厳しくて、友人関係なんて甘ったれたこと、相談も出来なかったし。
(……そんな時に、彼女と出会ったんだっけ)
私の目の前で行われる、衣食りりるのトラウマスライドショーは、かなり克明に当時のことを記録している。真っ暗い世界のなかで、液晶画面のみがぼんやりと薄暗い光を伴って網膜に焼きつく。多分、これは数学で疲れた私が仮眠をとっている間にみている夢だ。そう理解しているのに、この世界から出る自分を恐れている自分がいる。……いや、違う。
「…………現実に、戻りたくないだけ、か……」
皮肉気味に呟いたと同時に、画面で一つの動画が流れ始めた。
五月の休日、蒸し暑い体育館。昼からの練習で、午後五時には終わったというのに、一年生は片付けがあって遅くなる。もう辺りはぼんやりと夜の色を含んでいていたから、電気をつけようかどうしようか迷って、結局薄暗い中部室までバスケットボールを運んでいたんだった。……友達になりたいと言ってくれた、彼女と一緒に。
初めて、まともに派手な子——あの子と喋った時の記憶だ。あの時はただただ、静かな自分に話しかけてくれた“あの子”に対して羨望と希望のまなざしを向けていたように思う。私の中にある記憶の断片が、ソプラノの声を発する。記憶の断片は、茶色がかったショートヘアをしていた。美人と形容するにふさわしい外見だ。
『何か、衣食さん、いつもありがとうね。片付けとか、率先してやってくれて』
『…………えっと、そうかな、ですかね』
彼女も私もクラブではおとなしい方だったから、派手グループの筆頭的ポジション(決してレッツパーリィとか言って他校に乗り込む意味ではなく)だったあの子に話しかけれた時は、初めはびびった。内心は、話しかけられたことへの嬉しさ百パーセントだったけど。
派手グループの一員であるあの子は、快活な笑みを浮かべていた。友好的だった。
- KANKA*な私2 ( No.93 )
- 日時: 2011/07/31 22:42
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 一族滅亡☆キック
『そうだよ。……ほら、あたしとか他の子が遊んでる間にやってくれるじゃん。あれ、文句も言わずに凄いなって思う。イラッ、ってしない?』
『いやいや、そういうことじゃない、ですよ。単に、クラブ終わった後の片付けって何か好きなだけ、です、よ。てか、イライラするとか申し訳なくて無理ですって……』
否定の意味をこめて、わたわたと慌てて両手を所在無く振る。慌てた私の様子を見て、きょとんとした。口を開くと、桃色の唇からは元気そうな笑い声が降り注いだ。
『あ……あっははは! 衣食さんってっ、や、やっぱ何か、何か面白い、ね! ふっ……ふつーは申し訳ないとか、思わない、って……っふふふふっふ!』
『え、えー……? 面白い、かなー? ……よく分かんないです、ごめんなさい』
『もー、同級生なんだから、その微妙に敬語はなしでいこーよ。せっかくの同クラブなんだしさぁ』
くすくすと洩れてくる笑いを抑えて、あの子は私に手を差し伸べてきた。クラブを終えて汗だらけの私は、運動後にも関わらず綺麗な姿のあの子を目を丸くして見つめる。その手は一体なんなんだろうかという疑問が頭の中を巡った。
ふわり、どこからか初夏の風が髪の毛を揺らした。明らかに葉の方が多い桜が、開け放った体育館のドアから見える。五月のとある休日に、衣食りりるはこう申し出を受けた。
『あたしさ、衣食さんと友達になりたかったんだよね。りりるって呼んで良い?』
『う、うん、勿論だよ! ……えっと……』
『あー、私の名前、苗字しか知らないんでしょー? りりるひどーい』
いとも簡単に同じクラブのメンバーというラインを超えて、あの子は友達というラインのこっち側へやってきた。衣食さんから、りりるという呼び方に変えて。私は派手なあの子に友達になりたかったといわれて、あの時有頂天だったのだ。
『私の名前はねー、八千代坂 涼。皆からはやっちんとか、りょーりょーとかって言われてるよ』
『八千代坂……涼ちゃんね、分かった』
今では罪悪感の塊にしか思えない、あの時交わした友達という約束。
私と涼ちゃんが新しい友情を芽生えさせている間、たった一人だけその友情を望まない者がいたなんてこと、私は後になって気付くのだ。
『よろしくね、りりる!』
『こちらこそ……よろしく、涼ちゃん』
私が、初めて学校が楽しいと思えるようになった頃。
涼ちゃんと談笑する私のことを見つめる冷たい視線が、彼女のものだということなんて————私は、六月の下旬に知った。彼女がぽつりと打ち明けた、ある事実によって。