ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ———DEVIL BLOOD——— ( No.1 )
- 日時: 2010/09/09 20:29
- 名前: 時 波紋 (ID: K.HEaMnc)
一話「突然の告白」
「好きです、つきあってください」
その一言が、青見 優(あおみ ゆたか)にとって、何よりも幸せだった。
誰だって、ずっと好きだった人から突然「好きです」と言われたら嬉しさでいっぱいだろう。
優も例外ではなく、突然の、しかもずっと好きだった人からの告白で、心は嬉しさと動揺で膨らんでいた。
だが、すぐに呼吸を整え、優は目の前にいる未来の彼女に向かって、こう言った。
「俺も……君の事、好きだ」
途端に、近藤 遊海(こんどう ゆうみ)の顔がぱっと明るくなる。遊海の頬は赤かった。
優はぎこちない動きで遊海の小さな体を抱きしめる。そんな優の頬も、遊海の頬の色と同じく、赤く染まっていた。
* * *
××県○○市姶ノ寺村。
ここは本当に小さな村で、人口も500人を超えるか超えないか程度である。
そんな小さな村に、俺たちの学校がある。
市立姶ノ寺第一高等学校。俺、青見優はここの生徒であり、今年めでたく卒業する三年生だ。
受験やら就職やらで忙しいとき、俺にとって最大の幸福が舞い降りてきた。
——彼女ができた。
それは、18年間生きてきて一度もなかったことだし、これからも絶対にあることではないだろうと思っていたことだ。
そんなことが今日という日にあっさりと起きてしまうのだから、未来というのはわからないことばかりだ。
つやがあるセミロングの黒髪を左の方で一つに束ねている、顔の整ったその子の名前は近藤遊海。一つ年下の高校二年生だ。
人口が少ないこの村だから、高校なんか一つしかないし、クラスも三学年で一つ。だからこそ俺と遊海は出会ったのかもしれない。
そう、いうならば運命の出会い。俺と遊海は、出会うべくして出会ったような気がするのだ。
「おい青見、何ニヤニヤしてるんだ。気持ち悪い」
横の机から俺の頬をつついてくるのは、同級生の大峰 光(おおみね こう)だ。どうやら俺は、突然の告白に浮かれすぎて、少々ボーッとしていたらしい。
いつの間にか、今日最後の授業は残すところ挨拶だけだったらしく、教卓では先生が教科書をそろえ、出席簿の上においていた。
「では、今日はここまでです。明日も授業はありますので、しっかり復習しておいてくださいね。学級委員、号令をお願いします」
「起立!」
学級委員の号令とともに、クラス全員が立ち上がり、礼の一言で全員お辞儀をする。こうなれば残りは帰りのミーティングだけである。
すぐに帰る用意をしている俺に話しかけるのは、今日できた彼女だった。
「優先輩……、今日、一緒に帰りませんか?」
彼氏と彼女という関係なのに、遊海の言葉使いは堅苦しい。父が礼儀に厳しい人だったらしく、性別や年齢にかかわらず、敬語を使えと教わったらしい。
だが、せっかく彼氏と彼女の関係になれたんだからということで、せめて呼び名だけは下の名前を使おうということになったのだ。
そんな彼女のお誘い、断る理由もなかったので、俺は軽くOKの返事を出した。
「おっ! お二人さん、ラブラブですねえ?」
そんな俺たちのやり取りをクラス一うるさい光が、黙って見ているはずかなかった。
即座に反応し、俺たちをおちょくってくる。
「うるせえ、くやしかったらお前も彼女の一人や二人、つくってこいよ。はい、しっしっ」
「へいへい、邪魔者は消えますよーだ!」
苦い顔をして光は乗り出していた身を引っ込め、席に座る。そんな光を遊海は心配そうな顔をして見ていた。
顔も頭も完璧な遊海の悪いクセ、それがこれだ。
「大峰先輩、怒っちゃいましたね……」
「大丈夫だ、どうせ明日になったらけろっと忘れるだろ」
「で、でも……」
悪ふざけや冗談が効かないのである。
馴れ合い、ふざけあい、冗談の悪口、その大半を遊海は真に受けてしまうので、彼女の前での軽口は厳禁なのである。
「とにかく! あいつのことはほっとけ! さっきも言ったが、明日になりゃ絶対に忘れてる!」
「それならいいんですけど……」
「あー忘れる忘れる! とりあえずミーティング始まるみたいだし、席つけ」
前では、学級委員がミーティングの準備をしていた。遊海は即座に自分の席につく。
タイミングを計ったように学級委員がミーティングの開始を告げた。
「これから帰りのミーティングを始めます。まずは今日の反省を行います」
学級委員がそう言うと、さっそく教科係が授業の様子の報告を始めた。ちなみに俺も遊海も光も今日あった授業の教科係じゃないし、光にいたっては係の所属にもついていない。
俺はこういうのにはあまり興味がないため、机に置いてあるかばんに顎を乗せ、話が終わるのを待っていた。
ちらりと横を見る。さっきから微かだが寝息が聞こえるのだ。横、つまり光の席を見ると、がばんに顔を埋めて寝ている光がいた。
口まで埋めてるのに寝息が聞こえるとは、大したやつだ。
「……大峰くん、起きてください」
ふいに聞こえた、学級委員の冷たい声で、光は跳ねるように起き上がった。その際、「は、はひっ!」という何ともまぬけな声が聞こえたが。
まあ、今日の担当はクラス一冷徹な女、本田 魅矢(ほんだ みや)だったので、当然である。
その後、ミーティングは続いたが、その間光の体は硬直したままだった。
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