ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Io sono speciale. ( No.2 )
日時: 2010/09/10 22:41
名前: 虎紺 (ID: 9fVRfUiI)

主人公:染谷 真人 (ソメヤ マヒト)


第一話


僕の住むこの世界には「死」がない気がする。
たとえば野良猫が死んでいるのだって見たことないし、祖父や祖母はまだ健在だ。
それはとても、幸せな事。




「——行ってきます。」

「あ、ちょっと!今日は部活ないのよね?帰ってくるの何時くらい?」

「えっと・・・七時くらいになるともうよ。いつもと一緒。んじゃ。」

「はぁーい」



朝。ごく普通の一軒家の、黒色に塗られた扉が開けられる。
中から出てきたのは、男子にしては少し長めの黒色の髪と、平均よりも少し低いくらいの背、細い体、そして印象的な丸い目を持った男子。
中に向かって何かを喋りながら、振り向きざまに扉を閉める。
朝日に目を細めながら、家の前で待っていた友達に声をかけ、ほんの少しだけ口元をほころばせる。

「おは、聡哉。」
「ん。おはよ、真人。」

対する友達——神崎聡哉も、茶色く短い髪をはずませ、もともと細い目をさらに細める。
ごくごく普通の中学生の日常的な朝、と言ったところか。

「そういえばさぁ真人——」




人生にはいくつかのきっかけ、というものがある。
この瞬間はまさにソレ——染谷真人という人間の、人生を変える瞬間だった。

ガスっ。

ダンボールを蹴った時の様な音がし、同時に聡哉の姿が消える。

「え、ちょ聡哉っ!何を何処に、え、え?」

戸惑いながら真人が友が消えた周辺をみる、と。

ぽっかり。

まさに「ぽっかり」としか言えない様な、真っ黒な穴がある。
そこからのぞく、友の茶髪。


——なんだこれ。






これが染谷真人の、最初の人生を変えるきっかけだった。
後から気付いても、この時の真人は何も知らず——


「だ、大丈夫か?」


とりあえず、穴の底に向かって声をかけた。