ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: あおの牙 ( No.1 )
日時: 2010/09/10 18:58
名前: 名無し(´・ω・`) ◆E9XquY9g8. (ID: zuIQnuvt)

 プロローグ

 クソだ、この世界はクソだ。クソ以下のナニモノでもない、ただのゴミ屑が集まる世界。この空気を吸っているだけでも吐き気がする。それぐらいこの世界は穢れて、綺麗で、邪悪で、純粋だ。つか、なんで俺がこんな世界のことを考えている。まったく気持ちが悪い。まぁ、今なら血反吐が吐けるかもな。よし、吐いてみようか。確か指を喉の奥に入れれば吐けるんだよな。
 
 「うぇっ」

 うわ、息がしにくい。舌がつりそうだ。ぐほっ、げほっ、ごほっ。
 だめだ、まだ出ない。もっと強く押し込んでやれ。ごほっ、う えっ。

 「うおえ」

 出てきたのは粘り気のある痰だ。まるでスライムみたいで可愛らしい。
 そんな塵に愛着を持ってしまう愚かで馬鹿で哀れな狼人。それが俺だ。
 狼人——狼から人間へと“変化“することが出来るおぞましき力を持つ愚者。そのせいで幼い頃、見知らぬ人間共にこの体を犯され、貪られ、辱められ、心を砕かれた。永遠と続く罵詈雑言。俺は狂った。人間に狂わされた。
 俺は俺だ。母さんも父さんも姉さんも、皆は皆。罪は狼人の祖と人。今の俺たちは何にも悪くない。悪くない、悪くない!

 「悪くないんだ!」

 「何がだよ。つかいきなり何? 超びびったんですけど? 心の臓がきゅって縮まったんですけど?」

 見上げればよく知る顔。 
 言葉の割にはそれほど驚いていないようで、無表情に近い。

 「お前も驚くんだな」

 「そりゃまあ人間だからな。そこら辺にいる廃人と一緒にしないでくれ」

 よく知る顔は唇を、まるで真夜に映える三日月のように歪ませた。人間なのにそんな顔できるんだな。俺もやってみようか。俺も今は人間だ。こいつのように出来ないはずはない。

 「——って、うわー気持ち悪っ。お前が笑うとか……空から岩を降らせる気か?」

 「気持ち悪いとか言うな、“人間”のくせに」

 「あれ、岩を降らせるっつーのは否定しないんだな、“狼”さんよぉ」
 
 ——ああ、やっぱりこの世界はクソ以下だ。