ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 呪いの島 2 ( No.3 )
- 日時: 2010/09/11 18:46
- 名前: 紅薔薇 (ID: 4jdelmOD)
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「こっち来てみろよ!鹿が死んでるぞ!!」
またか。
ハルトはすでに聞き飽きていた。今日でもう5匹めだ。鹿の死体を見つけたのは。
コリィもいいかげん死体を肉にするため運ぶのにも疲れていたので、しかめ面をしていた。だが海賊全部に肉を行き届かせるには最低でも7匹は必要だった。最もそんなにシカ肉を食べたことはなかったが。
「今日は4匹でいいよ。十分だ。ただ、その鹿の一部の肉は切り取ってかえろう」
ハルトとコリィは手早く肉を切り取ると、肩の荷袋に放り込んだ。二人は疲れ果てていた。汗を滲ませながら二人はゆっくりと歩き続け、そして湖で休憩した。日が傾いてきている。この島を探検し始めてから二日はたったが、今だ悪魔の伝説について手がかりはつかめていなかった。コリィは人一倍好奇心があったので、今回の任務に大乗り切りだったが、今はただ顔をしかめているだけだった。ハルトもこの暑さと肉の重さに少し苛々していた。ハルトは湖のありかを地図に書き込んだあと、水を皮袋に入れて腰に下げた。また荷物が増えた。
早く持って帰らないと肉がすぐに腐ってしまうこともあって、二人は3分立ったらすぐに出発した。集落で火を焚いている煙は遠くに見えていたが、進んでも進んでも集落にでることはなかった。苛立ちはつのってゆくばかりだ。日はすでに沈み,空には夕闇が迫っていた。二人は足を速めた。そのうち、コリィがしびれを切らした。
「何なんだよ。この島は。進んでも全く集落に出られないじゃないか」
ハルトは何か怪しいと思っていた。確かに煙に向かってひたすら歩いている。だが一向に煙には近づいていないのだ。時間だけがのろのろと進み、疲れが増すばかりだった。ハルトは木の下に立ち止まると、地図を広げた。コリィがばかばかしいとでも言うように地図を見下ろした。
「こんなん意味無いさ。空白がいっぱいあるじゃないか」
ハルトは丹念に距離を調べた。今日はまるまる1日湖のたった1キロ先にあるクルール山にいた。それから湖に行き、そして集落へ戻ろうとしている。不思議だ。クルール山から集落までは3キロ弱しかない。そして湖から集落までは約2キロほど。それなのにもう何時間も歩いたり、走っている。何かがおかしい。
ハルトはきつねにつままれたような気分になったが、悪魔の伝説が関与していることは直感していた。
だがもし悪魔の仕業だとしたら、どうすれば良いだろうか。ラスターなら何かいい考えが浮かんだかもしれなかったが、彼はここにはいないし、ましてやハルト達が帰れないなどということは知らないのだ。ハルトは急にラスターの顔を思い浮かべて寂しくなった。
「おい、もう日が暮れたぜ。空も暗いし…。仕方ないや。寝小屋でもたてて寝よう」
二人は木を集めて森を彷徨った。コリィは寝小屋の木を。ハルトは薪を。
30分ほどすると二人は寝る場所を定めて、寝小屋をたて、中で焚き火をした。ひととおり仕事を終えると、コリィが悔しそうな声で言った。「食べ物どうしようか。鹿の肉はもう腐ってるだろうからな」
ハルトはふいに声のトーンを上げた。「鹿…なんであんなに死んでたんだろうな。熊の仕業にしては数が多すぎる。それに僕らはまだ熊に遭っていないからそんなにたくさんウジャウジャいるわけじゃないんだろう」
コリィはハルトを睨み付けた。
「そんなことどうでもいいだろう。とにかく食べ物が欲しいんだ。腹が減ってたまらない」
ハルトは荷袋からクリオの実と干し肉をひときれ取り出してコリィに渡した。コリィは顔を輝かせた。
「どうしたんだ?こんなに」
ハルトはあきれた顔をした。「非常時用にいつも持ち歩いてんだよ。それに、さっきのことだけど、どうでもいいことじゃないんだよ。僕らはラスターにこの島を探検することを頼まれている。食べ物集めだけじゃない。地形や動物達についても、悪魔についてもとことん調べなきゃいけないんだからな」
干し肉をほおばりながらコリィは頷いた。その顔を炎が照らした。コリィは少し大柄だが、今夜はことさら大きく見えた。「まあな。でも今は生きることを考えようぜ。水はあるのか?」
ハルトは腰にから水袋を取り外すと、一口飲んでコリィに投げた。コリィはあっという間に飲み干してしまった。そしてあっけなく水は無くなってしまった。投げ出された水袋を荒々しく取り上げると、ハルトは声も荒げた。
「おい。貴重な水をどうしてくれるんだよ!」
コリィは食べ物と水にありつけて呑気だった。「いいじゃないか。明日朝に水を探そうぜ」
ハルトは水袋をしぶしぶ腰に下げ、頬をふくらませながら寝転んだ。「近くに水なんかあるもんか。湖に戻るって言うのか?だったら集落に帰った方が早いさ。だけど、集落には戻れないときてる」
コリィは他人事のように笑っている。「なんでだろうな。やっぱ悪魔かな」
両手を頭の下にしいて、ハルトは悔しそうに頷いた。「多分な」
コリィは焚き火を消すと、集めた草をしき、横になった。「寒くないのか」
「うん」ハルトは無意識に嘘をついた。悪魔の事で頭がいっぱいだったからだ。
しばらく沈黙が続いたが、コリィが小さな声で言った。
「今日、鹿の死体の近くで天犬の足跡を見つけたんだ」
ハルトは横目でコリィを見たが、暗闇で彼の姿は見えなかった。
「天犬?」
「この世界を支配する7人の神の1人女神ラーリリスの犬達のことさ。狼より大きく俊敏で賢く、熊よりも大きな力をもつ。もとは悪魔退治のためにつくられた犬なんだ」
“悪魔退治”ハルトは訊ねた。
「伝説だろう」
コリィはかすかに笑い声を立てた。「違うよ。本当だ。狼よりも全然大きかったししかも5本指なんだ。この世界で5本指は天犬しかいない」
「大昔ラーリリスが悪魔のいるところに天犬達をやったらしいんだ。おかげで悪魔は半減してね。今の世があると言われてる。だけど天犬は今はもうほとんどいないんじゃないかな」
コリィはあくびをした。
「もう寝ようぜ。この話はまた明日だ」
ハルトは天犬について気になったが、今はコリィに従うことにした。