ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 忍び寄る影 2 ( No.5 )
- 日時: 2010/09/14 17:38
- 名前: 紅薔薇 (ID: 4jdelmOD)
ラスターは咳き込んで、そしてゆっくりと部屋を見渡した。まるで何か潜んでいるものを見つけようとするような目つきだったので、ハルトは一瞬震えた。
「昨夜、お前達が帰ってこないと騒ぎになってから、とりあえず私は彼らに寝るよう言った。私はずっと起きて待っていたが、とうとう帰ることがなかった。私はあきらめて部屋に戻ろうとしたんだ。その時、クルール山の方から不思議な遠吠えを聞いたんだ」
コリィがピクリと動いたのが分かった。彼もまた遠吠えを聞いたのだろうか。
「オオカミのように、細い遠吠えではなかった。まるで熊がオオカミにでもなったかのような、力強く、太い声だ。……だが透き通っていた」
ハルトは首を振った。「でも……天犬は伝説でしょう?」
「いや。僕は見た」
そう言ったのは、コリィだった。コリィはいつもと違って真剣な目つきで下を向いていた。ハルトとラスターは思わずコリィに目をやった。ハルトは声を上げた。
「お前……5本指を見たっていっただけじゃないか」
5本指と聞いてラスターは即理解したようで(彼より知識があるのは恐らく神か悪魔ぐらいだった)ゆっくりと頷いた。コリィが上目で船長を見つめた。
「で、コリィ。天犬はどんな姿をしていた……?」
恐ろしいことを口にするとでもいうような、震えた声でコリィは言った。
「……夜に目が覚めたんです。ハルトは寝ていました。暑かったし、夜風に当ろうと思って、そっと寝小屋を出ていったら遠くの方で銀色に何かが光っていたんです。目をこらしてみたら、それは大きな犬達の群れでした。俺は天犬については少し知ってたから、それがすぐに天犬の群れだってわかりました。昼に5本指の足跡も見つけていたし…」
コリィはゆっくりとハルトを見た。そして続けた。
「群れのカトラス(リーダーの意)は尾が三本で、それ以外は二本でした。カトラスは俺の方に目をこらしていましたが、気付いたのか、すぐに群れをつれてどこかへ走っていきました……」
ハルトはコリィに尋ねた。「なんで、僕に言ってくれなかったんだよ」
コリィはハルトを睨んだ。「だって、天犬のことをペラペラしゃべったりしたら、誰も信じなさそうだし、なんか罰が当りそうだろ」
ラスターは笑った。「それはお前の取り越し苦労さ」
*
コリィが出て行ってしまってから、ハルトはラスターを見つめた。
「もし、天犬と手を結ぶことができたなら悪魔は捕まえられるのでしょうか」
「かもしれない……」船長は真剣な顔つきで答えた。
「ならば……。僕が天犬と話してきます……!!!」
船長は思わず顔を上げた。ハルトの目は本気だった。まだ少年の体を震わして、拳を強くにぎっていた。ラスターはしばらく考え込んだ。そしてチラリとハルトを見た。
「天犬は……ヘタをすればお前を殺すかもしれぬ。そうしたら彼女の約束を破ったことになるぞ」
「僕は死にません」
「死ねないんです。僕は約束を破ったりしない。絶対に彼女を見つけ出します。それまでは死にません」
ラスターは決心のかたいハルトを見つめ、意味ありげな言葉を言った。
「……そっくりだな」
そして微笑むと、「いいだろう。お前の好きにしなさい。だが一つ命ずる」
「絶対に……森を傷つけるな」
「この島は神々がすむと言われる。お前の犯したことで神々の怒りに触れては皆が巻き込まれてしまうからな」
ハルトは深く頷いた。