ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.19 )
- 日時: 2011/04/25 15:22
- 名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
- 参照: 第一章「現実でりーと」→第三話「でりーと病棟3」
「コンバンワ」
ノックせずにドアを開ける僕。
何とも無礼講。
その言葉に振り向いたのは黒髪の男の人。
開いたドアには担当医の名前が書かれていた。
「…遅いんだけど」
死んだような目をした、その担当医…久留間は机に頬杖をついて大欠伸をする。
「眠いんですか?」
自動ドアが閉まっていく音がして、僕はその久留間先生の前に置いてあるドアに座る。
軋む音がして、何だか僕が重いみたいじゃないか。
「眠いに決まってんでしょ」
分かり切っていたことを聞いて、分かり切った答え。
なんで聞いたのか、自分でも言葉の意味がわからないんだけど。
「遅れてすいません」
ここで、やっとマナーが守れたようで。
軽く頭を下げて、やっと本題に入ると言うところ。
「あーそれじゃ、いろいろ聞くから」
あ、そういえば。
「名前なんですか?」
聞いておかないと、一回聞いたかな?
「…またそれか」
久留間先生は髪を掻き毟って、呆れたように名札を見せた。
それを見ようと前へ身体を乗り出すと、先ほどよりも椅子が軋む。
「…馨」
名札には久留間 馨の文字。
「いつも言ってるだろ」
溜息をついて、名前を聞いた瞬間に嫌そうな顔をする久留間先生。
思うに、自分の名前が嫌な奴ですな。
僕と同じだ。
言葉に意味は無いんだけど。
「…おい」
「はい?」
「もう時間なんだけど」
「はい」
…今度こそ久留間先生は呆れたみたいだ。
長話が過ぎましたかな。
「もういいよ、何も変わって無い見たいだし」
変わってないと言ったらそうかもしれない。
「次は早めにきます」
そう言うといつも通りに先生は机の上の袋を手渡してきた。
薬、精神安定剤、僕の必需品。
それを受け取って椅子から立ち上がる。
「それじゃあ」
ドアに手を掛けようとしたその時、後ろから声をかけられる。
「氏名」
これだけ書くと、意味分からないな。うん。
「なんでしょうか?」
背を向けていた身体を前へ向かせる。
久留間先生はまた欠伸をしながら話し出した。
「郁は元気か?」
郁、いーさん。
「いーさんですか?元気ですよ」
そう言うと、そうか。言った後に続けた。
「忘れるなんて、無理だよな」
どういう意図で繋がったかわからないけれど、言いたいことは分かる。
いーさんに言われた、忘れろと言う言葉のことだと思う。
「そ、うですね」
「久留間先生にも経験が?」
僕はもう先生とは目を合わせていない。
背を向けていて、ドアも少し開けた。
少し開けたドアからは隙間風が吹き、手が悴んで出たくないな、とも思わせた。
「まぁ、な」
先生が呟いた。
それを聞くと、僕は後姿でもわかるように頭を下げて、診察室を後にした。