ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.21 )
- 日時: 2011/04/25 15:24
- 名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
- 参照: 第二章「崩壊りばーす」→第四話「追憶りばーす1」
第四話 追憶りばーす
「診察終わったんですか?」
診察室を出ると顔を赤くした分身こと内海が壁に寄りかかっていた。
右腕をタオルで強く握りしめながら、苦痛に歪んだ顔で、でも笑顔で。
「どうしたんですか、それ」
「刺された…」んです。
そう続けた時に、内海は右腕にのせていたタオルを剥がした。
「 」
抉られた肉、右腕は赤く染まっていて。
犯人は何となくわかってた。
「水白にやられたんですか?」
彼女ならやりかねない、いいや、彼女のお見舞いに来てるならそれしかありえない。
彼女はいつも奇声を上げていた。
看護婦さんを困らせていた。
自虐行為でシーツが赤く染まっていた。
自分の名前を何度も呼んでいた。
それは、内海の名前だったんだけど。
「そうですよ」
内海は笑顔でそう言った。
よく、笑顔でいられるよな。
そう感心していると内海の寄りかかっていた壁の隣、扉から聞きなれた声が聞こえてきた。
聞きなれた、僕の通う診察室の向かいの病室。
『とおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおるとおる!!」
それに、内海は壁から背を離すとめくり上げていたシャツを下ろした。
シャツは、もとは白かったんだろうけど。
「大丈夫、なんですか?」
じゃないとは思う。
でも、彼は大丈夫って答えるんだろうな。
「はい」
内海はお呼びだしをくらった、扉に手をかけた。
開ける直前に内海は僕を振り返って会釈をした。
「それじゃあ、僕はこれで」
内海が扉を開けて。
僕が歩き出そうとして。
水白の声が聞こえなくなって。
病院はいつも通り静かになって。
僕の手が音を立てずに誰かに掴まれて。
掴まれて、て?
「え」
左手首が強く圧迫される。
「あだだだだだだ!!」
久しぶりの大きな声で声が裏返った。
僕の声が響いたからか、内海も顔を出して驚いたように此方を見てくる。
「氏名くん?」
『とーるとーるとーるとーる』
少し高い、女の声が後方から聞こえてくる。
自分の腕を握っているのが、その声の主だと気づくのにはそう時間はかからなかった。
「ありすちゃん、何でここにいるの?」
内海がその声の主らしい女の名前、ありすを口にした。
彼は驚きで少し固まってたりする。
「とーる、とーる見つけた」
多分。
最初のとーるは内海のことなんだと思うけど。
「とーるって…」
「とーる」
「氏名くんのこと?」
「とーる!」
その、ありすと言う名の女は僕の腕を先ほどよりも強く握りしめて。
「痛っ」
顔を見せた。
「 」