ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.24 )
- 日時: 2011/04/25 15:27
- 名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
- 参照: 第二章「崩壊りばーす」→第四話「追憶りばーす3」
「あーきゅん!ようこそー」
あーちゃんが手を大きく広げて招待してくれた。
真っ白な、部屋。
あーちゃんの家。
「ここが、あーちゃんの部屋かー」
出来る限り声のトーンを上げようと努力はしたつもり。
努力実らず、変化無し。
「あーくん座って座って」
気にするそぶりを見せないあーちゃん。
きっと、あーくんという存在がいる?
違う……あるだけで十分なんだろうな。
「ありがとう」
「えへへ」
差し出された、というか滑って手元にやってきたパイプ椅子に腰をかける。
「よっこらせ」
あーちゃんは元気に真っ白なベッドに飛び乗ると僕の目線に合わせるようにして座った。
あーちゃんが目を離そうとしないので、話をきりだして見ようと思います。
言葉に意味はないのかな。
「あーちゃん……」
「何ぞやー」
コミュニケーション機能が発達していないので、すぐに話題が持ちあがらなかった。
辺りを見回して、話の種を探すことに全神経集中!
「あー、ご飯食べないの?」
周りの人がずっこけそうな言葉しか見つからなかった。
流石中3の脳……小3かもしれない。
それでもあーちゃんは満面の笑み。
「あーくん、お腹すいてるの?」
違う解釈をなさってくれたんだけど、確か。
先程胃の中のものを全て吐きだしてきたわけで、お腹は空いてるんだろうな。
「あー、うん。まぁ」
「じゃあ、あーちゃんが食べさせてあげようじゃないかー」
僕が話の種にしようとした、机の上の食べ物達。
その中のスープらしき皿に銀色のスプーンが入っていき、あーちゃんがすくってくれた。
「あーくん、あーん」
そうしてスプーンの上のスープが僕の口元に運ばれる。
「あーん」
躊躇い無く、口を開けたのはあーちゃんだから。
意味は無いけど。
あーちゃんが冷ます必要がないほど冷えたそのスープが舌にしみて味が広がる。
懐かしい、病院食の味。
決して美味しくなくて誰もが不味いと言ってた病院食でも、あの頃は不味いなんて思わなかった。
「うーん、ありがとうー」
美味しいとは言えなかった。
「どーいたしまして!」
もちろんあーちゃんご満悦。
その後何度も、あーんを繰り返したのは言うまでもないんだけど。
「ありがとうー」
「ありがとー」
「ありが、とう」
「あ、りがと」
「あ……がとう」
確信したのは、いーさんの作る手料理がどれだけ美味しかったかと言う事だったわけで。
僕はあーちゃんの残した、昼食を完食した。
「あーくん、いっぱい食べたね!」
「あーちゃんが食べさせてくれるからだよー」
のろけるように言った言葉だったけど、本当だった。
それでも、食べないわけにはいかない。
あーちゃんの為にも。僕の為にも。
あーちゃん。
ぼくがこわして、なおせなかったひと。
とおいきおくがよみがえる。