ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.52 )
- 日時: 2011/10/22 17:24
- 名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
- 参照: 第三章「不完全るーる」→第七話「自分るーる」
第七話 自分るーる
「…」
「…」
ただいまいーさんとにらめっこ中。
待合室に走ることはせず、早歩きもせず、歩いて向かった僕を待っていたのはしかめっ面のいーさんだった訳で。
眉間に皺、そんなにしかめっ面してたらいつもそんな顔になりますよ。なんてジョークも言える雰囲気じゃないよ、こんなときこそこの言葉の出番。
言葉に意味は無いです。
そんな僕といーさんのにらめっこを黙って見ていた先生、久留間先生が口を開いた(救世主現る!これ見出しで。
「いつまでそうやってんだ」
全くその通りです。
「先生、いーさんに言ってやってください。心配し過ぎですから」
いつも尋常じゃないほど心配ばかりして、もう子供じゃないんだゾ!
とか言ったら怒られるだろうけど。本当に。
でも、やっぱりおかしいと思う。
アレかな、同情?可哀そうだから、可哀そうな目にあった子だから優しくしてあげないとっていう…
「同情?」
僕が聞こえないだろうと思って呟いたその言葉に、過激になんだか反応する。
「…違う」
聞こえてたみたいです、地獄耳ですね。
「郁、コイツはそんなに心配しなくてもやっていけてるだろ?今日の事はともかくだけど」
今日の事、僕が先生のとこに行くまでに起きた出来事かな?
それともこうやって帰りが遅くなったこと?
あーちゃんと出会ったこと?
心当たりがあり過ぎて困る。
「そうですよ、でも心配してくれてありがとうございます」
いーさんは酷く哀しそうな顔で僕を見ていた。
「郁」
先生がいーさんを呼ぶ。
どうしてここまで僕に入りこんでくるのか、分からない。
きっと先生はその答えを知っているんだろう。
それと、先生が診察室で言った言葉も気になる訳だ。
「…分かった。分かったら、帰るぞ」
先生の方を一度だけ見て、いーさんはそう口を開いた。
「先生、遅い時間まで失礼しました」
いつでもどこでも欠伸を噛み殺す先生に、迷惑な事をしたと思いながらそう言うと先生は冗談交じりに応えてくれた。
「本当にな、眠ぃんだよな、医者って仕事は」
これからどれだけ迷惑がかかるかわからないけど、明日からもっと掛かるんじゃないかと悟った。
あーちゃんと、ゆらり、それと二人の“とおる”。
今日だけで随分多くの人と出会った、とか思いだしながら歩き出したいーさんの背を追う。
今日の出会いが、何を僕にもたらしたかは分からないけど。
僕の心が痛んで。僕が苦しんで、それで周りの人が幸せになれるならそれほど望む事は無いよ。
言葉に意味は無いです。
結局のところ、なにも変わらない筈な訳ですね。
「先生、おやすみなさい」