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Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.60 )
日時: 2011/10/22 17:25
名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
参照: 第三章「不完全るーる」→第七話「自分るーる2」


「あず」
無言で病院内を歩き、ドアを潜った直後。
いーさんが僕の名前を呼んだ。

「なんですか?」
いーさんは僕から見るに凄い端正で綺麗な顔を、少し暗くして僕の方を向いていた。
少し長くて、明るい茶髪が目に入る。

「馨から聞いた、お前あの子と会ったんだってな」


あの子。

「あーちゃんのことですよね、それって」
分かってた、自分でもそれは十分すぎるほど理解していたんだけど。
そうせざる負えなかった。


そんな言い訳をしたら、いーさんは怒るだろうか?
「お前から、近づいたんだって?」
「はい」

「俺はずっと言い続けてきたのに」
知ってる、耳が痛くなるくらい言われ続けていた。
いーさんが僕の為を思って、僕がどうなるか知っていて、それでも言い続けてくれた。

いーさんだって苦しかっただろうに。

「分かってます、でも僕は間違いだとは思わないし、こうするべきだったのだと思ってます」


「…知ってる、あずがそうする事くらいわかってた。だから俺はあの子とお前が合わないように馨に言ってたんだ」
いーさんは、凄い哀しそうに俯いている。
僕はものすごく罪悪感を抱いた。

でも今更どうする事も出来ないし、しようとも思わなかった。

「いーさんに今まで僕は守ってもらっていて、尽くしてもらいました。
でもこれは僕のやるべき事なのだと思ってます」
やらなければいけない、逢わなければいけない、愛して、忘れて、こうするしかない。

「あず」

いーさんが呼ぶ。

僕はそれに応えた。
「何も変わりませんよ、変わる筈がない」
僕があーちゃんと逢ったからと言って、何が変わるわけでもない。

ただそれは。

「僕にとって、生きる意味があーちゃんという存在なんですから」
笑えてただろうか、僕はいーさんが心配しないように。
いーさんが自分を責めないように、いーさんが笑えるように。

笑って、言ったつもりだ。
言葉の意味は無い、意味を持たせる事が僕には不可能なのだから。

「あず、俺はずっとお前の家族だ」
家族。


いーさん、僕は何でいーさんがここまでしてくれるのか分からないって言ってきた。
だってそれは、いーさんは何も悪くないのにそうやってしてくれるから。

家族だと言ってくれたいーさんに、これ以上いーさんが苦しまないで済むように僕は言うよ。
今まで、知ってても隠してきたことを。



「いーさん、僕は家族のいーさんにこれ以上自分を責めるのはやめてほしいです」

無言。
いーさんは、俯いた顔を上げてはくれなかった。

それでいいんだ。

「いーさんは何も悪くない、いーさんは誰も殺してなんか無いんだから」