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Re: 生きたいあーちゃんと逝きたいあーくん ( No.63 )
日時: 2011/10/22 17:25
名前: 出雲 (ID: luklZ16E)
参照: 第三章「不完全るーる」→第七話「自分るーる3」



「あず…?」

いーさんは戸惑ったように僕を見て口を動かした。
…嗚呼、いーさんはやっぱり知らなかったんだ。

僕の知らないふりは今日まで持ったみたいだった、よかった。

「いーさん、もういいんです」
そうだ。

「僕、知ってるよ」
気づいていた、知っていた、調べていた、わかっていた。
でも、僕は言わないでおいた。

いーさんは僕の言葉に目線を下へ移して、呟いた。
本当にか細い声だった。
「なんで」

「それ」

いーさんに会ったときに、すぐに分かった。
あかりが死んだとき病院にいた死んだような目をした男の人。
その近くで大粒の涙を無表情のままにこぼれ落とす男の人。

「郁と馨、初めて聞いたときは女の人なんだと思ってました」


「でも後から、いーさんとせんせいだって気づいたんです」
そんなに鈍くないんです、僕。

死にたい死にたいって言ってたあの時よりも成長したから。
今でも変わらないのかもしれないけどね。

言葉に意味ないよ。


「あかりが言ってたのか?」
頷く。
「そうです、あの頃はいつも女の人と遊んでるだなんて…って思ってたんですよ」
「…そうか」

あかりはほとんど家にいることはなかった。
帰ってきて聞いてみたら毎回、馨と郁という単語が出てきてたのを覚えてる。
今にしてみれば僕たちも女の人みたいな名前をしてるんだから、男だって疑ってもよかったなぁ、なーんて。

「いーさんもせんせいも悪くないんです」



「あかりも悪くない」
いーさんが言う。
僕もそう思いたい、そう思ってる。
あかりは確かに変人で可笑しくて危なかったけど悪い人じゃなかった。

「そう、だれも悪くないんですよ」
「だから、自分を攻める必要はないんです」

全部全部全部全部全部ぜんぶ、火種は同じだった。
でも火を上げたところは違くて、犯人も違う。

それで、いーさんは巻き込まれただけだ。

「ありがとう」
そんないーさんが僕にお礼を言う。
ごめんはたくさん聞いてきたけど、ありがとうはあまり聞いたことがなかったから、ちょっと嬉しい。

「喋って良かったですよね」

「喋ってくれて本当に良かった」



これでもいーさんはまだまだ謝り続けるだろう。
いーさんは巻き込まれただけで、何も悪くなくて、逆に僕が謝らなければいけないのに。

僕はまだいーさんに喋ることが出来ない。
それは、いーさんに絶対に関係なんかないところで起こったことで、起こしてしまったことで、もう終わったことだ。

「それじゃあ、帰りましょう」

だから、言わない。
それが僕の中のルール。