ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 「危険空域」 —オリキャラ募集中— ( No.14 )
- 日時: 2010/09/17 19:04
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
ここは宿舎のロビー。俺達は現在カードに興じている。
休息は大事だ、俺達は自由の子らだが、だからと云っていつまでもあの空にはいられない。
精神があの大空を求めていたって、身体がそれに付いていってはくれないのだ。
「ストレート」
ふと、聞こえた声。
テーブルを見てみるとオーエンが広げたカードが見える。
ああ、確かにストレートだよ。クソッタレ。
「負けたよ、ダンディ」
マークは降参だという風に両手を挙げた。
俺の役は3カード。残念ながらこれで終いだな。
ポイッとカードをテーブルに投げ捨てる。さァ、敗者を笑えばいいさ。
「3カード、あんたの勝ちだ」
オーエンは肩を竦めると、微笑しながらマークと俺の金を奪い去っていきやがった。畜生。
そんな不幸な時には更なる不幸が重なるもんだ。
俺がゲーム中に飲もうとテーブルに置いてあったマグカップに、ピシッという音ともに亀裂が入った。
嗚呼、神よ。貴方様は随分と悪趣味なご性格をしてらっしゃる様で。
マークは静かにくつくつと笑っている。野郎、そういうのが一番頭にクルんだよ。
オーエンは……少し不安げな青ざめた顔で俺を、いや俺のマグカップを見つめていた。なんだ?
「<ブルース>、どうした?」
あえて名前ではなくTACネームでオーエンを呼ぶ。
コイツのこんな顔を見たのは、あのラインラント沖の激戦以来だ。
俺が質問すると、オーエンはその不安げな表情をすぐにくるりと変えて、いつもの不適な微笑に戻った。
「いや、な。俺の国では“そういうのは”昔から不吉の象徴だって言われてもんでな。ちょっと警戒しちまっただけだ」
「おいおい、こんな亀裂が何だ。そんな迷信にいちいちビビるなんてオーエン、お前本当にあの“コンドル軍団”出身者かァ?」
コンドル軍団、あの“東部内戦”で大活躍した戦闘機部隊だ。
30人の正規兵と12人の航空傭兵を有したこの部隊は正に縦横無尽に空を舞い、蝿を叩き落とすが如く敵機を蹴散らしていったらしい。
「抜かせ、今度お前の前でシェルブール空軍お得意の曲芸飛行でもやってやろうか?」
「それは勘弁願いたいね。なァ、<ブレイズ>」
「俺に振るんじゃねえよ、<カウフマン>」
こういうバカ話は出撃前や戦友を失った時の不安、悲しみを和らげてくれる。
俺は別に信心深くも無いし、神様なんてそこら辺のクソと同じぐらい興味が無い。
だが、不吉だなんだというこんなくだらない話でも、飛行機乗り達の心に不安を植えつけるのは充分だ。
そういう精神的なものでダウンする奴もいるし、実際それで墜ちた奴もいる。
オーエンには正直、まだ死んで欲しくは無い。まだ貸した金も返してもらってないしな。
そんな事を俺の脳味噌が思考していた時、宿舎内に設置されたスピーカーから、半ばやけっぱちにも思える重々しい声が轟く。
『全パイロットに告ぐ!至急ブリーフィングルームへ集合せよ!繰り返す!全パイロットに告ぐ!至急ブリーフィングルームへ集合せよ!」
この放送の途中から、基地には“第2種戦闘配置”を知らせるサイレンが鳴り響いていた。
飛行ロッカーに走るパイロット達で宿舎内は慌しくなる。
無論、俺達もマークがテーブルを蹴っ飛ばしたのを合図に、ロッカーに走った。
自分のネームプレートが貼られたロッカーを開けると、手早く飛行服と飛行帽を着用する。
そのままの勢いで他のパイロット達と共に、ブリーフィングルーム、作戦会議室に直行した。
邪魔な障害物にはひと蹴り食らわし、それぞれの役目を果たす為に走り回る整備員や防空隊員達から頑張ってこいよのと励ましの言葉を受けながら、やっと目的地に到着する。
目の前の扉を開ける。ここからは紳士的に、だ。
他のパイロット達とは一緒にならずに、俺達航空傭兵は最後部の席に座る。
今日は運が良い、隣には女の子だ。その顔を確認するべく、俺は目を走らせた。
藍色のポニーテール。<ローズガール>だ。俺は軽く口笛を吹くと、彼女に話しかける。
「やぁ、あの日以来だね。<ローズガール>」
ローズガールはこちらをチラッと見ると、渋々と口を開いた。
「……ええ、そうですね。<カウフマン>」
相変わらず無愛想だな。笑えばさぞ可愛いだろうに……
まぁ、いい。そっちがそういう態度なら少々強引な手で行かせてもらう。
「TACネームが分かった所だし、さてさて本名でも教え合おうじゃないか。俺はトモヤ・ガーランド。君は?」
彼女がそれに疑問を呈する前に、あるいはすぐにあしらわれない様に俺は早口で名前を言った。
俺の予想が正しければ、ローズガールは断れないはずだ。
案の定、彼女は反論を挟もうとする前に早口で言われてしまったので、開きかけていた口を閉じるしかなくなった。
ニヤニヤと笑う俺に溜息を吐きながら、何処か呆れた口調で俺の要求に答えてくれる。
「はぁ……貴方はまったく……私はリメンエン、リメンエン・ジュヴァイル」
「ヒュウ、エキゾチックな良い名前だ。西方民族の血でも入ってるのかな?」
「知りません、父はプロイセン人ですし、母はイギリス人です」
「ふ〜ん、それにしては何というか、随分鮮やかな藍色の髪だと思ってさ。プロイセンにもイギリスにも、そういう髪色は珍しいよ」
「そうですか……担当官が来られましたよ、前を向かれては?」
フフン、幾らかお近づきになれたかな?
本名が聞けたんだから大きな一歩、そう信じたい。
ついで担当官は頑固一徹アーサー・へミングウェイ中佐だった。
彼はテキパキと動き、大きなホワイトボードにこれまた巨大な地図を貼り付ける。
そして中佐は説明を開始した。
「本日、ヒトフタマルマル時、エイーザル高原にて味方偵察機が敵航空部隊を発見した。編成は少なくとも大型爆撃機が3機、護衛戦闘機が14機存在すると思われる。今の所、敵航空部隊は針路をここ、ウェイキング飛行場に向けている。狙いは明らかだ、我々の住処を爆撃し航空優勢を奪うつもりだろう……諸君らの任務はこの爆撃機だ。このデカブツは腹に大きな爆弾を抱えている、動きは鈍いぞ。弾丸をどてっぱらにかましてやれ……出撃だ!」
その言葉と共にパイロット達が示し合わせたかの様に一斉に立ち上がった。彼らは一つしかない扉に早足で向かう。
相変わらず無駄な台詞は一切無いな。こちらとしても大助かり————
座り心地が悪い椅子から立ち上がる。さぁ、ペイバックタイムだぜ。