ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 「危険空域」 —オリキャラ募集中— ( No.8 )
- 日時: 2010/09/16 17:58
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
宿舎に飛び込んだ俺がまず見た物というと、それは猛スピードで突っ込んでくるヤカンだった。
咄嗟に伏せて難を逃れたが、入った瞬間ヤカンが飛んでくるなんて云う事態は前代未聞だ。
俺は飛んできた方向に目を凝らす。
そこでは俺の2番機を務める相棒、マーク・ボールドウィンが、大柄な男(多分正規兵だ)の腕を取り押さえていた。
大柄な男は苦しそうに呻き声を挙げながら、それでもまだ逃れようと抵抗していたが、マークに一発パコンとやられると大人しくなった。
俺は立ち上がりながら我が相棒に声を掛ける。
「マーク!このクソッタレ!今日は手酷くやられたな」
マークはこちらに気づくと、男の手を離してこちらに身体を向けた。奴は憎憎しげに言う。
「ああ、畜生!整備員の奴ら、格納庫の扉を閉めなかったのか!……ああ、そうだよ。この野郎の所為で俺は死ぬ所だったんだ!」
マークは痛みにうーうー呻いている男の腹を思いっきり蹴っ飛ばした。恐らくあの男がマークの2番機を務めたんだろう。
あそこまで怒らせるなんて、どんなヘマをやらかしたのやら……
まぁ、とにかく少し落ち着かせるか。
「なぁ、マーク。俺達は雇われてる身だぜ……少しはクールダウンしろ」
俺はせかせかと奴の近くまで歩くと、深呼吸しろと手振りで合図した。
マークは俺をジロッと一睨みすると、大きく溜息を付く。
「分かってる、分かってるよ。トモヤ……」
相棒は落ち着こうとしているらしかった。手をぶんぶん振ったり、指で額を触りながら歩いたりと色々な方法を試している。
俺はその隙に倒れている男に近づき、何とか立たせると近くにあったソファに座らせる。男はぐったりともたれ掛かり、動く気配は無い。
相当なダメージを負った様だ……合掌。
不意に、誰かに肩を叩かれる。首を半回転させると、相手が誰だかはすぐに分かった。
上手く整えられた顎鬚とサングラス。如何にもなダンディと言えるだろう。
彼の名はフランコ・オーエン、TACネームは「ブルース」
その“ダンディ”・オーエンは苦笑しながら、俺に質問をぶつけた。
「なァ、ガーランド。ボールドウィンに何があったんだ?彼らしくないじゃないか、その……殴りつけるなんて」
ああ、クソッタレ。俺だって知りたいよ。
「分からない。だが、マークが口にした言葉から推理してみると、ああ俺は探偵でも刑事でもないが……だが思うに、我が相棒殿はその大柄な男に“多大なストレス”を与えられた様だ」
つまりは殺されそうになったのさ、オーエン。
アンタなら分かるだろう。
「ああ……なるほどな。だが一応正規兵だろう。基地でも何回かは見た顔だし……ルーキーではない事は確実だと思う。ボールドウィンがまた無茶な戦闘機動でもやったんじゃないか?」
「それは俺も考えた。だが、マークはそんな事で相手をぶん殴ったりはしない。あんな奴でも一応分別は付いてるよ」
そうだ。たとえソイツが付いてこれなくて援護が出来なくても、それは俺達の責任だ。
少なくともそんな技量を持ってる奴は正規のパイロットじゃあ多くないし、航空傭兵でも付いてこれないのは大勢いる。
俺達はその覚悟でやっているし、必要じゃない局面ではそんな機動は取らない。
なら通常の、つまり訓練されてるはずの“まとも”な戦闘機動の最中にヘマをしたか、それか、これが一番つまらない答えだが——ただの凡ミスで相棒の命を危険に晒したか。
どちらにせよ、歓迎される出来事ではないし、やられる側としてはたまったもんじゃない。もし俺の推理が当たっていたとしたらマークが怒るのも当然だ。
オーエンが首を傾げながら言った。
「フフン、どうやらボールドウィンには“憤懣やるかたない”正当な理由がある様だ……さて、俺は司令殿に用事があってね、会いに行かなくちゃならない」
お得意の魅力的な低音を披露しながら、オーエンは背中を向ける。
俺は咄嗟に質問してしまっていた。
一応、グーツ飛行場からの付き合いだ。安心して背中を任せられる傭兵の一人でもある。
そんな奴がもし、ここから離れるとなるとかなり寂しいものだ。
「オーエン、ここを離れるのか?」
彼は俺の方へ顔だけ向けると、手で“金”を表す合図をした。
ああ、きっと必要経費だとか言って司令官にせびりに行くんだろう……可哀想に。
俺は親切で太っ腹なマーチン司令官に酷く同情した。
結局、マークが切れた理由ってのは分からなかった。
どうせもう起こってしまった事だし、マークはあの男と二度と組むことはないだろう。
その事実だけで充分じゃないか?