ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ツギハギセカイ〜合作小説〜      ( No.52 )
日時: 2010/12/07 16:14
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: EWuSebNO)

男の懐にあった端末には感謝しなければならないだろう。

この端末にはこの辺り一帯の地図が入っている。

そうでなくともこの付近は一通り頭に入っているが、『1番』や『12番』といった単語に覚えはない。

おかげでどうにか先程男が言っていた『12番』に辿り着くことができた。

あいかわらず辺りはビルがそびえるばかりの、街灯だけが道路を照らすだけの闇夜の街並みだが。

やはり俺たちの知っている携帯端末よりも遥かに高性能なところも、逆にありがたい。

・・・あの男が言っていた『仲間』。

それはやはり俺と同じように他のパラレルワールドから来た人間だろうか・・・?

正直敵の内部に精通した味方が一人欲しい。

無論裏切られる可能性も否めないが、それならそれで十分に敵に近付くことができる。

裏切らなかったら万々歳だ。

食料円盤がある以上食料の問題は無い。とはいえ、いつまでも手を拱いているのは得策じゃない。

何しろいつ敵が先刻のように襲いかかってくるかもわからない。恐らく情報網も相当なもの。

今はSURVIVAL GAMEの時のようには仲間はいない。

疲れきって寝ているところでも襲われたらその時点で終わりだ。

・・・どう考えても、長く今の状況でいるのは賢明な判断とは言えない。

何にせよ、早いところその『仲間』とやらを見つけるしかないみたいだな。

男が死んだところ見ると、恐らく罠ではないだろう。

・・・遠隔操作で人を殺すほどの何か。罠にかけられたらその時点で死ぬ可能性もある。

これは慎重にいかないとな・・・。

・・・いや、だとしたら敵側に精通している奴を味方に引き入れるのはやっぱり危ないか・・・?

「やっぱりこんな状況だと頭も上手く回らないな・・・」

そう。どういう訳か夜が明けないのだ。

かれこれ1番からここまで、もう随分と長い時間移動してきたはず。

何日、とは流石に言わないが、少なくとも夜が明けてもいい時間は。

だが一向に夜が明ける様子が無い。端末に時計らしき機能も無い。

どうやらこの世界ではいわゆる常識は無意味みたいだ。

・・・味方に引き入れるにしても、そうでないにしても敵との接触は必要か・・・。






そこまで考え路地裏に入り込んだ時、目測数メートルくらい先の空中に、少女が浮いているのを見た。

少女の髪は紫色で、毛糸の帽子とセーター、

マフラーにブーツとミニスカートの下にタイツといういかにも冬の恰好をしている。



・・・まさか、ここまで常識が通用しないとはな。寝たまま浮く奴なんて見たことも聞いたことも無い。

と思ったが、そうではなかった。

「ん・・・?」

少女は寝ていたのではなく、恐らく気絶している。

そして、ところどころに火傷の痕。

・・・ということは・・・この少女は味方か?

「おい、あんた大丈夫か!」

そう言って少女に近づくと、少女が浮いていたのではなく

まるでハンモックの要領で闇にまぎれて見えない何かに乗っていたのがわかった。

「これは・・・金属の糸・・・?」

切れ味はあまり無いようだ。

そして、上手く力が分散するようにまるで蜘蛛の巣のような形になり、少女を支えていた。

「・・・と、まずは手当てをしなきゃな」

さっきの男からついでに携帯医療セットなんかも失敬しておいて正解だった。







いくつもの死線をくぐり抜け、事実一度電撃で死んだ身だからこそ、わかる。

まず一つ目は、この少女の火傷は電撃によるもの。右腕に打撃による痣の痕もあったが。

そして二つ目は、そのどちらの怪我においても、

言い方が少し変だが、絶妙な加減がなされていたということ。

腕の痣から見るに、これをつけた奴は相当体術に精通している。

そして、火傷の痕。痕とは言っても残らないように、ケロイドにもならないようになっていた。

しかし他にこれといった外傷は無い。おそらく気絶した理由は、電撃。

・・・もし、これらが偶然ではなく、わざとやったのなら・・・。

「・・・相当厄介な相手だな」

・・・まあまずは、こいつが起きたら色々と情報を聞き出すとしようか・・・。




「ん・・・」

と、早いな。

「あ・・・れ・・・ここは・・・いわゆる天国・・・?」

「目が覚めたか」

「・・・え?あなたが・・・もしかして、俗に言う天使さんってやつですか?」

「いや、違う。勝手に俺もあんたも死んだことにしないでくれ」

「・・・あれ?私確か屋上から落ちて死んだんじゃ・・・」

「いや、軽い怪我と火傷はしていたけど、ハンモックみたいに空中に吊るされているだけだったよ」

「・・・えっと、てことは貴方がこの傷の手当てを・・・?」

俺は無言でうなずいた。

「ありがとうございますっ!ええと、なんてお礼を言ったらいいか・・・



 あ、とりあえず自己紹介からしますね!私、イエスタディっていいます!」



イエスタディ・・・『昨日』?随分珍しい名前だな。

「本当にありがとうございました!ええと・・・」

少女が一瞬何か言おうとして止まったので、



「ああ、俺は遠野秋夜」



俺も名乗ってやった。とりあえず悪い奴ではなさそうだ。

味方とみていいんだよな・・・?