ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ツギハギセカイ〜合作小説〜 ( No.54 )
- 日時: 2011/01/21 13:43
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: .pwG6i3H)
- 参照: いやぁ、久々にサーセンorz
職業も決まり、見た目もそれに合わせたものにした俺達をおさらいしてみようじゃないか。
夕姫は英雄、鈴音ちゃんは魔術師、そして俺は——
「何の変化もなくないか?」
そう、俺は全く何も皆無に近いほど影響はなかった。
夕姫は肩当てやら動きやすそうな鎧、マントとかをつけているし……鈴音ちゃんもアニメでありそうな魔術師のハットとか……。
俺は何の変わりもない。特にこれといって変わりはなかった。さすが????だな。俺の脳内も????にさせてくれやがった。
「まあいいんじゃない? 武器も木の枝だし」
言われてみればそうだ。俺の武器は木の枝で……職業は謎。俺のキャラ設定おかしすぎるだろっ!
手に持っていた木の枝を地面に投げつけようとしたが折れてしまっては元も子もないので何とか押し留めた。
「よーしっ! 魔王倒すぞーっ!」
「いやいや、待て。夕姫、お前は本当の目的を見失ってはいないか?」
「魔王抹消ですよね?」
「鈴音ちゃんはしかねないから怖いな」
さっきから邪気と呼ぶに値するほどの笑みを浮かべている。これは鈴音ちゃんのゲーム脳が働き始めたせいか?
俺は一つため息を吐いて落ち着くともう一度状況をゆっくり把握するように話してやる。
「いいか? この世界は少し俺達の世界に外見は似てるけど、違う世界なわけだ。さらにはこの世界に椿たちも来たかもしれない」
「ふむふむ」と、頷く二人だが……本当に分かっているのか? 結構大事なことなんですけども。
「だから、俺達は魔王がいたとしてもそれを倒す暇なんてないんだって——」
「いますよ、魔王」
不意に鈴音ちゃんの言葉が俺の耳を貫くように衝撃を与える。
それは、俺も目で確認してしまったからだ。この目で。この現場で。
「ほら」
鈴音ちゃんが指を差した方向を——俺は凝視してしまっていた。何度も何度も目を擦る。
えーと……ここって町中ですよね?
「何で……魔王が目の前にいるんですか?」
思わず敬語になってしまうほどビックリだ。
だってな、君達。RPGゲームを始めて最初の町で武器や職業決めてだな、さあ冒険にというところで——
魔王が目の前に出現ってどうよ。
その魔王はまさに格好は邪悪な感じを醸し出し、律儀にも胸元の所に『魔おう』と書いてある。
王だけひらがな筆記ということは疑問だが、人々が喚きながら逃げているので魔王であることは確かなのだろうな。
「誰かーっ! 勇者をーっ!」
とかなんとか叫びながら町人は逃げまくっている。俺達の存在をまるで透かしているかのようにして隣を過ぎ去っていく。
さすがの夕姫も開いた口が塞がらないようだ。そして何より、鈴音ちゃんが満面の笑みというのはどういうことだ。
「……お前達が勇者か」
「え、えぇ〜……」
いきなり魔おうに話しかけられたよ。いやぁ、参った参った……。
「逃げるぞっ!!」
俺は二人の手を引いて魔王の元から去ろうとするが——片方の手が弾かれた。
「鈴音ちゃん!? 何してるんだっ!」
立ち止まる鈴音ちゃん。そして、邪悪な笑み。
これから予想すべきこと。んー……もしかして、倒す気ですか?
「えぇ、私が勇者ですっ!」
「「ちょっと待てぇぇぇぇッ!!」」
俺と夕姫の声が見事に重なる。
満足そうに立ち尽くすマジカルハットにマント、そしてビームライフル的な物体を手に持つ鈴音ちゃんの姿は——
あぁ、何とも滑稽だろうか。多分この状況じゃなかったら大笑いだろうな。
「そうか、お前が勇者か……」
ニヤリと不気味な笑顔を見せる魔王。ちょ、魔王さん魔王さん。最初の町でそんな見せ場使わないでください。
「どうだ? 世界の半分をお前にや——「私が世界を征服しますっ!」」
胸を張りながら勇者とは思えない、逆に敵かお前と言いたい発言をぶちかました鈴音ちゃん。
あぁ、見てられねぇ。だって魔おうさん、怒りすぎて顔に血管浮き出てるんですもの。
「いいだろう……なら、死にゃるがいいっ!」
死にゃるって何だよ。
魔おうの太い腕が鈴音ちゃんを襲おうとしたその瞬間、ビームライフル的なものを構えて——その腕を殴った。
「違う違う違うっ! 使い方違うからっ! 撃つものですっ! それっ!」
俺はツッコミを叫びながら鈴音ちゃんが案の定、魔おうの太い腕に吹き飛ばされてくるのを受け止めた。
なかなかの衝撃。てか腰が本当、痛いです。
「やいやいやいっ!」
次に横から夕姫がでしゃばってくる。やめとけ夕姫。それになんだ、その近所の悪ガキみたいなでしゃばり方は。
「何だ、お前は」
魔おうは夕姫に気が言ったようだ。よし、今の内に俺が鈴音ちゃんを安全なところへ——
「私は英雄だっ! このコスプレイヤーがっ!」
あぁ、ダメだ。この子の方がほうっておいたら色々と危ないわ。
俺はダッシュで夕姫の元へと駆けて行くことにする。
「英雄? 英雄というものは勇者が私を倒してからの称号だ」
魔おうは邪悪な笑い声を放ちながら夕姫を見下す。にしてもこの魔おう、でけぇ。3mぐらいあるんじゃないのか?
「そんなことどうでもいいよっ! とにかくかかってこいっ!」
と、いって夕姫は威勢よく剣を構える。ですよね、カボチャをここで取り出したら即死亡フラグ立っちゃいますもんね。
「面白い奴だな……なら——ぬええええっ!」
えぇ〜……何かかけ声ダサいな。見た目が台無しすぎるだろ。
そんなかけ声とは裏腹に何かすごいファイヤーボールみたいなのを生み出すからこの世って不思議だよな。
——といってもこの世界の不思議は一つも知らんが。
「どっせええええッ!!」
いちいちかけ声ダサいな。いや、そんなことよりファイヤーボールが夕姫に目掛けて吹き飛んでくる。
俺は全速力でタックルするような形で夕姫を前へ転がらせた。代わりに俺がファイヤーボールを目の前にすることになったが。
「奏っ!」
おいおい。俺の方が死亡フラグ立っちゃったじゃないか……。
とりあえず、なす術がないので目を瞑って右手をファイヤーボールに突き出した。
俺、死ぬのだろうか。走馬灯が駆けて行く……不思議な感覚だ……。
バチバチッ!
あぁ、当たったな。今、すげぇ音が鳴ったもの。
……バチバチ? あれ? ファイヤーボールに当たったらそんな電撃みたいな音しましたっけ?
ゆっくりと俺は目を開けてみる。するとそこにはファイヤーボールが逆に放った本人である魔おうへと向けられていた。
そして、魔おうに直撃する。
「むぉぉぉぉッ!」
とっても熱いんでしょうね。魔おうといえど、皮膚は皮膚なのでしょうかね。
マントやらについた火を消そうと地面へと転がりだす魔おう。対して俺は何が起こったのか全く意味不明だった。
夕姫と鈴音ちゃんを交互に見ると、二人とも唖然とした面持ちをしていた。
「えっと……何が起きた?」
俺は頭をボリボリと掻きながら二人に聞いてみた。
「……ファイヤーボール、跳ね返した」
単発的に夕姫が教えてくれた。ふむ、なるほどねぇ……って、え?
「跳ね返したっ!?」
俺の驚きを表す言葉に頷く二人。ていうかいつの間に鈴音ちゃん目が覚めたんですか。
「クソォッ! 覚えていろよっ! 勇者共っ!」
自身のファイヤーボールを自らが喰らっただけで逃げ帰ってしまった。俺達、ほとんど何もしてないと思うんだけどな。
「俺の能力ってもしかして……魔法とか跳ね返したりする能力、ということか?」
「多分……」
夕姫が難しそうな顔をして何度も頷いている。少し荒れた町中は数分後、再び人々が戻ってきて活気を取り戻した。
ていうか待て、町人共。お前らもしかして戦いの成り行き見ていやがったのかよ。チクショウ、感謝の一つもありゃしねぇ。
「……聞いたことがあります。魔法、いちいち受けてたら面倒臭いという理由でそれに対抗する能力……面倒な魔法をりじぇくと☆という能力があったはずです」
何その不愉快な能力名。全国の魔法使いさんに謝れよ。
「????でこんな能力手に入るんだなぁ……」
武器とかもカスレベルだけど少しは役に立ちそうだな。よかったーなんとか男としての面子は保てるかな。
「にしても……何のために魔おうはわざわざ町中に来たんだ……?」
「「さぁ……?」」
わけのわからない世界観に俺達は頭を傾げるばかりであった。