ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ツギハギセカイ〜合作小説〜     第1話更新開始 ( No.7 )
日時: 2010/09/18 17:23
名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: XNW/1TrV)

静まりかえった夜の闇に、不気味な光を放つ三日月が、二つ。

…………え、二つ?

もう一度空へと視線を移せば、いきなり揺れる大地。
うそん。地震ですかコンチキショー。
しかも頭が痛いです。
死亡フラグですね。わかります。
奥の方、脳の配置で言えばちょうど延髄のあたりがジリジリと鈍く痛いんだよ。
怖い怖い怖いコワイ。
アタシ本当は一般ピーポーだから膝がガクブルしています☆
ていうか語尾に☆つけてる場合じゃねぇよ。マジで。
本能的な恐怖に駆られアタシのとった行動は、文机の下に隠れる事でも、襖を開けて外へ逃げる事でもなく。

「はい、皆居ますね!? これで頭守って行きますよ!」

「……は、座布団?」

防空頭巾なんて無いので、座布団を皆に配付して避難指導。
座布団をもらったとき一瞬ポカンとしていた雄飛君もアタシが頭にかぶるのをみて理解したようだ。
点呼を完了すると、現世からもってきた通学用鞄を引っ張り出し、大切な愛刀を突っ込んで、手近な襖を開けた。
草履なんて履かなくても死にはしない! ……はずだ。

「長い、ですね。」

眉を顰めながら神無君が言う。
うん、揺れが長いね。
普通の地震なら、もうとっくに収まっている。
は ず な の に
何故収まらないんだ!?

「彩葉さん、奥州の地震ってこんなに揺れるの?」

「違う、筈ですど。」

希里ちゃんに問われてある事に気がつく。
……あれ。
この流れ、少し前に何処かで見た気がする。
つまりデジャブ。

「彩葉、空っ!」

燕が叫んだ。
・おさない
・かけない
・しなない
・もどらない
の四原則を守りながら空を見上げる。
ちょうど真ん中に、渦巻く暗い紫。

———え、何々。トリップ?

謹んでご遠慮させていただきたいです。
だが、断る。ですか。そうですか。

「燕! 手を繋ぎましょう。むしろ繋いで下さい。」

「彩葉!?」

返事を待たずに手を取った。
赤と紫の三日月、上空に渦巻く暗い紫、そして地震。
アタシの勘が言ってるんだ。
『別の世界に飛ぶ』って。
本来なら全員で手をつなぎたい所だが、それは流石に動きにくい。
燕や農民ズがコンクリートもどきで整備した道路を全速力で走っているのに、周りに人の気配は皆無だ。
ええええ、なんで。なんでだYO!
この地域の人はこんな大地震がおきても動じないんですか!?
いや、ありえない。
…不安だ…

「皆! もしものときの集合場所は上田城です!」

いやちょっと待てそれ以前に集合場所って何だ、と燕がツッコんだ。
上田城にした意味はない。
思い付いたのが、たまたまそこだっただけだ。
そのへんをちゃんと決めておかないと、アタシの予想が当たっていた場合、大変な事になる。
うん。愛しのハニー燕と別れるなんて出来ません。
もちろん、皆もだけどさ!!
はい、自重しますすいません。

「!」

「つば、」
め、は風の音に消えた。
直後に、戦場で何度も見たどっかの軍勢の様なものでなく、真っ黒に塗り潰された不定形の“影”が崩れ落ちる。
え、いつのまに現れたのそれ。
しかも、瞬殺?
瞬殺なのかい燕君。

「主! お下がりください!」

神無君が叫ぶ。アタシはそれを無視して前に出ようとする。

「ですが、」

いくら彼等でも、武器の無い状態でどれ程立ち向かえるだろうか。
そりゃあ、皆さんは人間離れしているけどもさ!

強い風になびく青い髪と、蒼色の帯。

……蒼色の、帯?

「いいから下がってくれ、彩葉。」

バチッ、と青い火花が見えた。
ハッとして目を凝らせば、彼らが身に付けているのは浴衣ではなく。
戦場で見慣れた背中が、アタシを囲んだ。
皆の頭の座布団は戦場ではなかったが。
それぞれがそれぞれの武器を手にしている。
あれ、アタシいつの間に燕の手離した?
わぁ、アタシってばうっかりさん☆
ぐにゃり、と足元が歪んだ。
今までの揺れとは、明らかに違う。
歪んだのは、地面ではなく、空間。
コンクリートもどきが剥がれたのが目に入った。
へえ、燕が作った道路の下ってこうなっているんだ。
始めて経験する浮遊感は、期待していたのとは全く違い、気分が悪くなった。
現実から逃避もしたくなる。
わあ、星が綺麗だね、あはははうふふふふ。
体の奥から来る不安と恐怖なんて、知らない。
震えているのは、地面だ!
と、言い張ってみる。

「そう思わないとやってられませんよ!」

「……彩葉、こっちだ」

あの燕、その言動と行動は嬉しいよ?
でもね、矢の矢じりを差し延べるのは止めようか。
遠回しに寄るなって事ですか。

「早く!」

「えっと……」

え、何これどっちにしろ死亡フラグ?
アタシに何処を掴めというんだ。
未知の恐怖よりも、馴染みの燕に殺される方が良いと言えば良いけれど。
いや、むしろ本望だ。
意を決して伸ばした手は、しかしそれに触れる事なく空をつかんだ。
黒く染まっていく視界の中、遠ざかる彼らが、スローモーションで再生される。
絶対的な“闇”に呑まれる前に、かすかに見えた光が、瞼の裏に焼き付いた。