ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.1 )
日時: 2010/09/20 19:23
名前: トレモロ (ID: C4aj9LgA)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

『世界の序章と個人の終焉』

ザァ、ザァ、ザァ。

鬱陶しい雨の音が周りから響き渡る。
雨はやむ気配を見せずそれどころかどんどん強くなっていく。
「……、はぁ〜」
そんな雨が降りしきる路地裏の奥。そこに佇む人影がため息をつく。
周りに人の気配は一切ない。それは、路地裏という場所と夜の闇が周りを包んでいる事も影響しているだろう。
そんな一般の人間なら決して近づかない、いや恐怖して近づきたくない場所に一人の人間が居た。
より正確には一人の【人間】と、一つの【モノ】だ。

一人の【人間】は【モノ】を蹴り飛ばし、動かない事を確認すると。
「はぁ〜」
また一つため息をついた。
だが、先ほどからため息をついているこの【人間】別に負の感情が押し流し、ため息をついている訳ではなさそうだ。
何故なら【人間】の顔にはどこか恍惚とした表情が受かんでいたからである。
そして、先ほどから動かない【モノ】には明らかに異常な点が在った。
その【モノ】は人間のような形をしていた。
腕、足、胴体、頭、それらを覆い隠す服。
その体つきが少し筋肉質な事から、人間の男に見える。
だがそれを【人】として認識するのは大抵の人は拒絶するだろう。
何故ならその体は、

人としてのパーツはあっても、人としての形をなしていなかった。

腕、足、胴体、頭のパーツは全く密着しておらず、個々の【モノ】として転がっている。
その断面から静かに大量の血を出しており、あたりに雨と交わり奇妙な文様を描きだしていた。

そんな状態の一般人なら、嘔吐してしまっても恥じる事のない状態の【モノ】少し歪んでしまっている【死体】をみて。
【人間】は全く動じていなかった。
ずっとうっとりした顔をして、【死体】を眺めている。
「ああっぁ、良い……」
短く不気味を通り越して、気持ちの悪い事を言いながら【人間】は【死体】を観察する。

ザァ、ザァ、ザァ。

雨はそんな【人間】にも【死体】にも平等に降り注いでいく。
そんな【死体】を作り上げたのは、誰が見ても明らかに【人間】だ。
【人間】の手には刃渡りが明らかに『銃刀法違反』なナイフ、というより小太刀とでもいうかのような刀身の武器が握られており。
その刀身は雨に流されてほとんど落ちてしまっているが、まだ、べっとりと血が付いている。
だが、【人間】———木地見 輪禍には罪の意識は無い。
そして、罪を問われる事もないだろう。
木地見 輪禍という人間が誰かを【殺す】という事はそういう事なのだ。
例え彼女が楽しんで人を殺していても、例え必要以上に残酷で無情な殺し方をしても。
彼女には立派で完璧ないい訳がある。
「うふふ、恨まないでよ進藤 卓也さん?」
彼女は今しがた自分が殺した人間に話しかける。
自分が無意味に、楽しむためにバラバラにして殺した男に。
「人に恨まれるようなことしたあなたがいけないのよ?もっと言うなら、私に依頼するような人間に恨まれるあなたがいけない筈よ」
もう返事もできない男に、それでもゆっくりと語りかける木地見。
そして、さっきまでの快楽におぼれた顔を消し去り、少しだけ寂しそうな顔で薄く笑い、言葉を紡ぐ。
その言葉は彼女の行為の全てを一言で証明するものだった。

「だって、私。殺し屋なんだもの……」