ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.138 )
日時: 2010/12/19 14:36
名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)

第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》2/5

「行動停止要求。刹羅(せつら)。あなたは組織から無意味な殺人は避けるようにと、要求されていることを忘却しましたか?」
「無意味じゃないさぁ。僕はこいつら全員殺したいんだよぉ?組織なんてどうだっていいんだ」
「……、警告。それはあなたが組織に対する反逆の意思がある、とあなた自身が認めた事になる。理解?」
言葉とは裏腹に、警告を出しているような雰囲気を全く感じさせない光加の声と表情。
まるでやる気のないコンビニのアルバイト店員のようなテンションだ。
そんな危機感を感じさせない【警告】に、眼鏡の青年刹羅は。嗤いながら彼女に、というよりその場にいる全員に対して高らかに自らの欲望を声に変えて口から吐き出した。
「あのさぁ〜。いいかい?僕はさぁ、何度も何度も何度も言ってるよねぇ?【殺したい】ってさぁ。わかってる?この言葉の意味がわかってる?理解している?意味をちゃんと熟考した?だったら一々【警告】なんて発しないよね?こんなにも壊れている僕に一々警告なんて発するわけがないよねぇ?僕は【人】を。【命】ある【生命】を【殺したい】って言ってるんだよ?……わかってるんだよ。自分【いかれている】事くらい。でも、そんな小さいことはどうでもいいんだ。どうでもね」
顔面に笑みを。どこまでも純粋に狂った笑みを受けべて、とつとつと語る青年。
しだいにテンションが上昇してきたのか、手に持ったナイフを器用にクルクルまわしながら、劇役者のような大袈裟な手ぶりも加えて語りだす。
「だからさぁ。君たちは黙って殺されろよ。死ねよ。死んで死んで死んじまえよ。消えて消えて消えちまえよ。大丈夫。僕がしっかりちゃっかり的確に明確に君たちを殺してあげるから。だからさ。だからだからだからだから」
ピタリ。
とナイフの回転を止め。ゆっくり視点を光加から、霧島と麻衣に合わせ。
同時に足に力を込め始め、

「だからだから、だからさぁ………………………………安心して死に消えろ」

力強く地面を蹴った。
「———ッ!?」
刹羅の突然の行動に、何も身動きが取れない少年と少女。
そんな中でも霧島少年は、自らの【依頼主】を守る為に。必死に体を、呆然と突っ立っている少女の前に突き出す。
だが、彼が出来たのはそこまでだ。
霧島終夜という人間は決して超人的な力を持っているわけではない。
確かに人よりは多少鍛えていたり、経験もあったりするが。彼は飛びぬけた特殊能力があるわけではないのだ。
人並み以上、超人以下。それが霧島終夜という人間の限界……。
よって、彼は自らの守るべき者の為に自分の【命】を盾にするくらいしかできなかった。
目と鼻の先にやってくる青年。

———どうする!どうするどうするどうする!!

自らの状況に混乱する霧島。
このままだとやられてしまう。
どうすればいい、どうすればこの危機を回避できる?
自分がすべきことはなんだ?どうすれば麻衣さんも自分も救うことができる?
そんな思考が一気に脳内を駆け巡る。
だが、無情にも青年のナイフはすでに顔面に近づいてきていて。
後数センチ、後数ミリ。
もうだめかと霧島が目を瞑った瞬間。

ゴガッ!

鈍い音が前方から響いてきた。
それと同時に何かが吹っ飛ぶ感覚と、今の今まで霧島を射抜いていた【殺意】がきれいさっぱり消えていた。
いや、消えていたというより、【かき消された】というほうがしっくりくるような感じだ。
「き、霧島さん……」
少年が後ろでかばっていた少女が、声を震わせながら彼の名を呼ぶ。
彼はその声を聞いて、強く閉じていた瞳をゆっくり開けた。
そしてぼんやりと浮かんできた視界に広がった光景は。
「……え?」
青年が目の前にいない【光景】だった。
だが顔を横に向けると、そこには。
「がっ。うぐ……。な、なんの……。何のつもり……だ……」
床に無様に転がった、青年の姿があった。
その顔は苦悶に歪みながら、どこかまだ笑みの成分を残して、真っ直ぐと視線を一人の人物に集中させていた。
その視線の先には一人の女性が、何も顕わさない表情で立っている。
「強制停止。あなたの行動は目に余る。よって、武力行使」
淡々とした声と表情で言う光加。
その言葉に青年。刹羅はよろよろと立ちあがりながら言った。
「あは……はは。珍しい……ね。鉄仮面ちゃ……ん。もしかして……この少年は君とって大事な子なの……かい?」
「……。帰還。拒否すれば戦闘。理解?」
刹羅の質問を無視して、自分の意思だけを淡々と伝える光加。
「……、僕に獲物を逃がせって言うのかい?」
「肯定」
もう先ほどのダメージから回復したのか、言葉には元の活力が戻りつつある。
その様子を見て霧島と麻衣は驚愕した。
なぜなら彼が吹き飛んだ原因は、

テーブルが【飛んできた】からなのだから……。