ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.140 )
日時: 2010/12/19 14:34
名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)

第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》4/5

「んで?そいつらはもう逃げちまったのか?」
年齢は五十歳程度らしいが、外見だけを見ているとまだまだ働き盛りの年代に見える。
無骨な体に、高い身長。その姿はまるで熊のようだが、かろうじて整った顔の造形が、彼を人間として繋ぎ止めていた。
服はあちこち汚れている背広姿。ネクタイもよれよれだが、まあ、それなりに体裁は整ってるだろう。
そんな男が椅子に座って霧島に質問を浴びせかける。
「はい、サイレン音が聞こえた途端とっとと帰って行きました。最後に『また会おう。少年少女たち。ハハハッ!!』とか薄気味悪いこと言ってましたけど……」
「成程。全く。その場で仕留めておいてくれれば楽だったものを……」
「いや、無理でしょう!相手は本当に危険な奴等だったんですよ!?」
容赦ない男の言葉に、必死で反論する少年。
男———萩原 栄志(はぎわら えいじ)は警部だ。
霧島にとってはそれなりに付き合いの長い存在で、色々と頼りにしたり頼りにされたりする存在である。
そんな男と霧島は、今現在一緒に店———『BARロゼリオ』の中で話し合っていた。
どうやら麻衣を【便利屋】に紹介したのは、始めに予想した通り栄志だったらしく、そのことに対する文句は後でこの【依頼】を完遂した後にゆっくり言うことにした。
本来ならこんな事件に直面したら霧島たちも事情聴取やらなんやらをしなくてはならないのだろうが、栄志の【特別な立場】を理解してか、ほかの警官たちに対する栄志の、
『悪いがこの場で見たことや、こいつらの存在はすぐに忘れろ。長生きしたかったらな……』
という言葉によって、それに了承して事後処理をして去っていった。
「しっかし、【マスタ—】は流石だな。あんな大怪我しながらも、俺に連絡よこすなんてな。あっぱれだ」
栄志がため息をつきながら言う。
そう、彼等が来たのは【マスタ—】のおかげなのだ。
倒れ伏し、血だらけの瀕死の重傷を負いながらも、必死で携帯によって栄志にメールしたらしい。その文面を見て、栄志は急いで部下を連れてここに来たというわけだ。
その【マスタ—】はパトカーと一緒に来た救急車に運ばれていった。
担架に乗せられて運ばれて行くのを、麻衣はすがりつきながら泣いて呼びかけていたが、結局その場で目が覚めることはなかった。
もしかしたら、あれが生きているうちの今生の別れになってしまうかもしれない。
そんな不吉なことを考えるほどに、彼の状態は深刻だった。
彼の状況を考えると気分が深く沈んでくるが、今はそんな状況ではない。
泣くのが許されるのはこの場では麻衣だけだ。今も霧島と栄志がテーブル席で話し合っているのから、少し離れたカウンター席でずっと泣いている。
霧島には掛ける言葉が見つからず、今だけはそっとしておくことにした。
「それでよ、【光加】の奴はどうしたんだ?」
「……。あの、刹羅とかいう眼鏡の男と一緒に、さっさと行ってしまいましたよ。まあ、出て行く前に一言『ごめんなさい……』って言ってましたけど。何に対して謝っているのやら……」
「ふん、相も変わらず無愛想なこったな、一年たっても変わらねえか」
そこでしかめっ面を少し柔らかくしながら、栄志は言う。
その言葉に霧島も苦笑しながら答えた。
「ええ、そうですね……。社長にも会わせてあげたかったな……」
「全くだ。つーかあの馬鹿はいつまでたっても連絡がつかないんだが……」
「あ、僕もなんです。どうしたんでしょうか……。何か面倒なことに巻き込まれてなければいいんですが……」