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Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.141 )
日時: 2010/12/22 16:10
名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)

第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》5/5

「やっちゃいましたねぇ〜。こりゃ始末に栄志さん呼ばなきゃダメかな……」
「栄志さんを知ってるんですか?」
「え、ああ。色々世話になっているもんで」
「そうなんですか。私も栄志さんには色々お世話になってるんです」
「あ、そうなんですか。偶然ですね〜」
「ええ、偶然ですね。ふふっ」
上品に笑う女性と、呑気に笑顔を浮かべる男性。
木地見輪禍と祠堂鍵谷は朗らかに会話していた。

辺りに変死体だらけの状況で【笑い合っていた】。

首のない死体、腕のない死体、足のない死体などはまだ良い方で。
体の原型を留めていないものがほとんどだ。顔が無意味に切り裂かれたものや、胴体をクリスマスケーキのように切り分けられているもの。実に様々な【死体】の種類。
人通りの一切ない路地に広がる地獄絵図。
その絵の【素材】は、先ほど彼らを襲ってきた黒服の連中だ。襲いに来たのに返り討ちにされ、しかも無意味に無残に殺されてしまった下っ端達。
そんな黒服達の死体を前に彼等は会話を続けていく。
「じゃあ、私は今携帯を家に忘れちゃってるので、【便利屋】さんに連絡をお願いしてもいいですか?」
先ほどまでの、黒服を殺している最中の頬を赤く上気させた恍惚の笑みは、今ではすっかり消え。残ったのは上品な雰囲気を纏った女性だけだ。
そんな彼女の言葉に祠堂は、わかりましたと返事をして、自分の懐から携帯を取り出して開く。
「それじゃあ、ちょっと失礼して……、ってあれ?電源切りっぱなしだったみたいです。うわっ、不在着信とメールがこんなに……」
少しあわてた調子で携帯の画面を見る祠堂。誰がこんなに連絡を寄越したのか疑問に思いながら、ボタンを押そうと手を動かしたその時。

「おいおいおい。なんだこりゃ」

声が聞こえた。
その声に反応して二人は路地の入り口にいる、声の発信源に目を向ける。
そこにいたのは壮年の男性だった。
筋骨隆々という言葉がぴったり当てはまる容姿の男で、服の上からでもその鍛え上げた肉体が見える。来ている服は周りの死体達同様のダークスーツ。
顔には無精ひげが顎に生えており、目は鋭い眼光を放っている。時代が違えばどこかの【マフィア】のボス幹部といった感じの容姿の男だった。
そんな男はギラついた笑みを浮かべながら、ゆっくりと祠堂と木地見に近づいてくる。
「なんでこんな無意味にスクラップしてやがんだぁ?つーかよぉ、これって普通にあり得ねえよなぁ?あり得ねえよなぁ!?」
自分で言いながらテンションが上がってきたのか、顔を真っ赤にしながら怒鳴り始める男。
「おい、祠堂。てめぇは一体どういうつもりなんだぁ?一様おめえにとって俺たちは常連客だよなぁ?」
男の口から祠堂の名前が出てきたことを疑問に思い、木地見は祠堂の方へ目を向ける。
すると祠堂は苦笑しながら、へらへらした笑みを浮かべ、言い訳を並べ立てた。
「いやぁ、旦那。お久しぶりですねぇ〜。いつもお世話になっています」
「……」
「いやだなぁ、そんな怖い顔で見ないで下さいよ。【コレ】をやったのは私ではないんですから。それに私は全ての敵であり味方ですよ?それは解っているでしょう?」
「……、そうだなぁ〜。確かにそうだ。悪いのはそこの女であって、おめえは何の関係もねえよなぁ」
獰猛な笑みを受けべながら祠堂の言葉に同意する男。
その言葉を聞いて安心した祠堂だったが、次の言葉を聞いて硬直する。
「つまりよぉ、てめえは仕事か何かか知らねえがたまたまそこにいて、たまたまこの状況を傍観して、たまたま俺が通りかかった訳だ。つーことはよォ、てめえは今から起こる【殺し合い】にもたまたま巻き込まれるってえことだよなぁ?」
「え、ちょ、旦那?落ちついてくださいよ」
ヘラリとした笑みは崩さぬまま、冷や汗をたらし始める祠堂。
反対に木地見の方は、うれしそうな笑みを顔いっぱいに広げ始めた。
「大丈夫だ。狙うのはあくまでそこの女だ。てめえなんか眼中にねえよ。だけどよ、人間壊れるときは壊れちまうよなぁ?」
だからさぁ、と男は続けて。
【殺し合い】を始める合図の言葉を吐きだした。


「たまたま壊れろ。くそ野郎」