ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.15 )
- 日時: 2010/12/22 21:30
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
- 参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000
第一章『便利屋と殺し屋の出逢い』———《便利屋の仕事事情》2/2
「どうも、お取り込みのとこすいません。【組織】さんから派遣されました、【便利屋】ですぅ〜」
軽薄な顔をした男だった。
へらへらと笑いながら、二人の【暴力団】に近づいていく男。
格好は一様黒のスーツなモノの、ネクタイはしておらずシャツの上のボタンは開いている。
背広はどこか着崩していて、なんともだらしない印象を受ける。
と、そんないきなり表れた見るからに異質な男に、【拷問師】の男は荒っぽく声を掛ける。
「なんだ、てめえは!」
「いえ、ですから【組織】に雇われてきたんですって」
軽薄な男はへらへらと笑い続けながら言う。
そんな男の態度に腹が立ったのか、苛立ちながら【拷問師】の男が怒鳴る。
「んなのはさっき聞いた!俺が言ってんのは、うんなもん要らねえからさっさとどっか消えろ、ってことなんだよ!」
「それは困りますねェ〜」
「あぁ!?」
男は笑いながら、【拷問師】に近づく。
そして……。
「俺はあんたの横領の件のケジメを付けに来たんだからよ」
「え……?」
【拷問師】が呆けた声を上げた瞬間。鉄パイプをもった右腕が【落ちた】
「は?え?————ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
自分の右腕の手首から先の方が消失しており、行き良い良く血が吹き出るのを見て、痛みと恐怖で狂乱し膝から崩れ落ちる【拷問師】。
そんな彼に軽薄な男は上から淡々と語る。
「あなた、自分のやっている事が【組織】にばれていないとでも?あまり自分の席を置く場所を甘く見るのはまずいですよ?【組織】は私に事実関係の調査を依頼するほどには、優秀です」
「がああああ!!、な、なに!?」
先ほどまで部下に悲鳴を上げさせていた男が、今は逆に悲鳴を上げている。
何とも皮肉な光景。
そして、それを作り上げた男はニヤニヤとした粘ついた笑みを受かべ、哀れな男に死刑宣告をする。
「私の調査の結果。あなたが組織の金の一部。まあ、【マネーロンダリング】している金の一部を自分の懐に入れているのが解りましてね。その罪を部下に押し付けている事もはっきりと解りました。ああ、証拠もあるので言い逃れは無理ですよ?」
「ひぃ!」
【拷問師】の男はその言葉に怯え、突如として表れた【便利屋】から、這いずって逃げる。
「全く。ルートの一部を任されているとはいえ、無謀な事をしましたね。残念ですがあなたの人生はここで終わりです」
【便利屋】は逃げまどう【拷問師】。いや、もうその名で呼ぶには無理がありすぎる、【裏切り者】にゆっくりと近づく。
手には、先ほど男の手首をバッサリと切った、銀に輝くナイフを持って。
「あ、あああ。待ってく、くれ!あ、謝るから、謝るから!かかかか、金も返す、だから!」
そんな必死の叫びにも【便利屋】は動じず、ゆっくりとナイフを上に掲げる。
「そういう良い訳は私に言っても仕方ないですよ?」
そして、思いっきり振り下げた。
「やめてくれええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
哀れな男の意識はナイフが届く前に、ぷっつりと途切れてしまった……。
「ふう、こんなもんですかね」
【便利屋】はそう呟きながら、椅子に縛り付けられたままの構成員に近寄って、縄をほどいてやる。
「あ、ありが…とう」
「いえいえ、これも仕事ですから」
先ほどまでの軽薄な笑みをやめ、ニッコリと笑う【便利屋】。
そんな彼に疑問を抱きながら構成員は、もっと疑問に思った事を口にする。
「あいつ…、殺さないのか?」
そう、彼は結局【裏切り者】を殺さなかった。
ナイフをすんでのとこで止め、意識を奪うだけにとどめたのだ。
「ええ、殺す事まではしないようにと言われてますので」
「そうか……」
笑いながら言う【便利屋】に、うすら寒いモノを感じながら構成員は相槌を打つ。
と、そんな彼の思いを知ってか、知らずか。【便利屋】は笑みを軽薄なモノに変え、男に軽い調子で言う。
「どうやら、あなたはこの気絶している方の後釜になるそうですよ?よかったですね!大出世だ!」
「そうなのか?」
「ええ!おめでとうございます!」
素直にほめたたえてくれる男をみながら、構成員から幹部になった男は複雑な思いを巡らせる。
そして、少しでもその思いを軽減したいと思い【便利屋】の男に問いを掛ける事にしてみた。
「なあ、あんた。いったい何者なんだ?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね」
こりゃ失敬と言いながら、【便利屋】は自分の名前を口にする。
「私の名前は祠堂 鍵谷と申します」
祠堂は懐の財布から名刺を取り出し、【組織】の幹部になった、以後自分のお得意様になるかもしれない男に渡し、こう付けくわえた。
「どんな事だろうと【仕事】の一言でかたずける。『祠堂雑事専門事務所』をよろしくお願いします」