ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.74 )
- 日時: 2010/11/07 23:02
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《そして狂人は増える》1/2
ドウッ。
という人が前倒しに倒れる音が、『BARロゼリオ』の店内に鈍く響き渡る。
倒れた人間から赤色がじわじわとカウンターのテーブルに広がっていくのが、その場にいる者の目に映った。
その人間は、くの字の形でテーブルにうつ伏せに倒れているせいで、まだ呼吸が在るのかさえもわからない。
血は尋常ではないほどに流れていて、テーブルの上に置いてあるコーヒーカップ(コーラ入り)の受け皿にまで血の流れが到達していた。
例えまだ生きていたとしても、そのうち出血多量で死に至る事は明白だろう。
「さてさて、次はどっちかなぁ?どっちにしようかなぁ」
そんな光景を作り出した人間が、笑いながら少年と少女に体を向ける。
手には持ち手の部分まで血でべったりと濡れたナイフ。最早銀色の輝きは失われ、赤色で染まっていた。
「やっぱ少年の方からやるのが普通の流れかな?」
喋りながらゆっくり近づいてくる男。顔はまだ若くスポーティな眼鏡が印象的な好青年だ。
そんな【青年】はどうやら、次のターゲットを少年——霧島終夜に決めた様だ。
「……あなた、誰です?」
自分の命が危機にさらされていると言うのに、冷静に言葉を紡ぐ霧島。
傍にはそんな彼とは対照的に、恐怖のあまり腰を抜かしガタガタ震えている少女が居た。
だが、そんな彼女の態度こそが、本来人間が取るべき行動だ。
むしろ霧島のように冷静な方がおかしいのであって、恐怖で顔を歪めている少女——進藤麻衣の方がいたって正常と言えるだろう。
「僕が誰か?自分の命が危機に晒されているのに、そんなこと考えるのかい?ハハっ!変な子だねェ〜。最近の若い子は君みたいな人間ばかりかい?」
「質問に答えてください。ついでに言うと『何故マスターを刺したのか』という疑問もあるのですが。それも答えて頂けると嬉しいです」
淡々と。
淡々と会話する少年と青年。
そんな二人を見て、麻衣は恐怖に震える思考で漠然と思う。
——この二人。な、なんなの……。
麻衣は怖かった。
先程まで愉しく会話していたこの店の店長である【マスター】が、いきなり現れた【青年】に刺されたこともそうだが。
なにより彼女が恐怖したのは。
今にも死にそうな人間が傍にいるのに、冷静な顔をしている霧島の方だった。
それならまだ、人を殺して喜色の顔をしている青年の方がましだ。
もちろん、青年にも麻衣は恐怖を覚えていたが、彼はまだ【狂っている】で済む。
だが、霧島は【狂っている】様には思えない。なのに、彼は冷静な態度を崩さない。
それが麻衣には、どうしようもなく怖く思えた。
そんな彼女の考えなど全く知らず、二人の【異常者】は会話を紡ぐ。
「そうだねぇ、理由か……。理由は—————無い」
「……」
「まあ、強いて言うなら君たちが邪魔くさいからかな?」
「……【便利屋】に恨みのある方ですか?」
「いやいや、僕は【便利屋】に恨みなんかないけど。そうだね、一様、木地見輪禍っていう【殺し屋】を探してるんだ。君、知らない?」
「……聞いたこと無いですね。といううかあなたはその【殺し屋】を探してるのであって、僕たちを狙う理由は無いのですか?」
「う〜ん、そこまで深い理由はないかな。殺したかったから殺したんだよ。本当にそれだけ。だからさ。君たちにもさっさと死んで貰うことにするよ。ああそうそう、別に今刺した人間が【便利屋】じゃない事は知ってるから。勘違いで刺したとかじゃないよ?」
後三歩程度で霧島を襲える位置に立ちながら、青年は無邪気に笑いながら言う。
その顔からは何の迷いも、後悔も感じられない。自分のやったことに微塵も疑問を感じていない顔だ。
そんな顔を真正面から見据えながら、霧島は思う。
———こいつは【便利屋】に恨みが在る訳でもない、当然【マスター】にも麻衣さんにも恨みなんかない。ただ快感を求めているだけなのか。そうか、そうなのか。
霧島はそこまで考えて。ふぅ〜、と短く息を吐いた。
そして、それをきっかけに彼は、
冷静に物事を考えるのを……やめた。