ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.75 )
日時: 2010/11/07 23:06
名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)

第二章『奪う人間と守る人間』———《そして狂人は増える》2/2

「……ざけるなよ?」
「うん?」
「ふっざけるなよ糞蟲野郎!!」
先程までの冷静で冷徹な雰囲気を完璧に塗り替えて、乱暴な口調で叫ぶ少年。
そんな彼に驚いたのは眼鏡の青年だけでなく、いまだに震えが治まらない少女も同様だった。
「理由無く人を刺しただと?殺したかったから殺しただと?は、ハハハ!」
青年の笑みとは対照的に。怒り狂ったものが出す特徴的な笑い声を出す少年。
「そんな理屈が通ってたまるか!」
そして、笑い終えた途端。彼は懐から、行き良いよく何か黒いものを取り出す。
「ほう、そいつは【スタンガン】かい?」
青年がその黒い物体を見て言う。
拳銃などと違い、個人でも比較的簡単に手に入る護身用の武器。それを少年は右手で強く握り構える。
もっとも、その【スタンガン】は少年が改造したもので、出力をいじってあるため、簡単に人を殺せる道具であり。最早【護身用】と言える代物ではないのだが……。
「はっ!そんなもので僕を倒すつもりかい?全く甘ちゃんだねぇ〜。まあ、いいけど」
実は全く甘い【武器】では無い事を知らない青年は、馬鹿にしたように嗤う。
「甘い?甘いのはあんたの方だ。私…、俺が【便利屋】と知ってそんなセリフが出る時点であんたは甘ちゃんだよ」
「おいおい、子供が凄んでも全く怖くな…」
「それに」
青年が言葉を紡ごうとするのを遮りながら、少年はきっぱりと言う。
「あんたは所詮、何の罪もない人を殺して快楽を覚える事の出来るクズだ。そんな奴に俺は殺せねえよ」
その言葉を聞いて。青年は笑みを消す。
そして、今までの彼の笑顔からは想像もできない無表情になり、
「言うねぇ〜。クソガキ」
少年同様先程までと口調をがらりと変えた。
最早言葉は要らない。
少年と青年は、今自分たちが何をするべきか、自分の倫理観と本能の二つで悟る。
重く息苦しい空気が辺りを包み。
互いに自分の得物を前に突き出し構える。
どちらもヒュッっと息を吸い、呼吸を整え。
足に力を込め。地面を力強く蹴り。
命の奪い合いを始めようという瞬間。


バアァアアアアアアアアアアアアンン!!!


という音で行動を強制終了させられた。
少年と青年。そして、傍で震えていた少女も何が起こったのかと体を硬直させる。
そして、すぐにその疑問を解消する事となった。
いきなり響いた轟音の正体は。
ドアだ。
正確には『BARロゼリオ』の入口にあるドアが金具ごと吹き飛ばされ、少年たちの横を垂直に飛び。そのまま店内の壁にぶち当たった音。
「え?ええ?」
混乱の極みに達する少女。
先程から状況がどんどん変わって行って、頭が今どういう状況なのか正しく理解できない。
ドアがふっ飛ばされたのが轟音の正体というのはわかる。
ならそんな事をした人間は?いや、そんなことが出来る人間など本当に居るのか?
そんな当然の疑問を頭に浮かべる少女。
だが、そんな彼女の疑問に答えるのかのように。ドアが飛んできた方向から、声が聞こえてくる。
透き通るような、それでいて冷たい響きが店内に居る人間達の耳に入る。
意外な事にその音質は、若い女性のものだった。


「失敗。勢い余ってドアを破壊。ここの店主が店に保険を掛けている可能性に期待」