ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動した世界(仮題 ( No.19 )
- 日時: 2010/10/10 06:53
- 名前: 葵那 ◆Xqng00qpvM (ID: KxjXeDNq)
「しかし、この“Neisan”という人物の名、何処かで聞いたことがある気がするな…」
武器庫の中を大体見終わると、アリアは再びあの文字の前にいた。
それも、その名を聞いたものごく最近…と言っても、2年くらい前の話だが———
『…2年前といえば、最後の戦争が行われた年だったな…』
ふとそのとき、アリアは記憶の端にあった“戦争”について思い出した。
『確か、人類の数まだ半分以下に達していない頃の話だったか…。ウイルスに対しての“最後の抵抗”と呼ばれる、人類史上最悪な結果を残した戦争か……』
その最後の抵抗と私が呼んでいるその戦争は、本当に悲惨なものであった。
世界が誇る、サウス・エセックス連隊という軍隊は、紛争が起こると速やかに仲裁に入り、被害拡大を防ぐ役として、表側では存在している。まぁ、悪くいえば武力で鎮圧する…と言ったところだ。裏では他国に圧力をかけたりする為だと思うが、詳しくは分らない。
…とにかく、そのサウス・エセックス連隊は、世界で最も規模が大きく、そして優れた軍隊で、アメリカ合衆国を中心とした連合国で形成されたものだった。
ウイルスの感染爆発が起こると同時に、彼らも対処に動き各地で奮戦するが——ウイルス感染爆発を食い止める事ができず、ついには『最後の抵抗』という人類最後の戦争が起こった。
人間同士の戦争ではあるが、相手は死人。ウイルスは衝撃に弱い為、すぐに鎮圧されるはずだったが……戦争を起こしてもなお、それを鎮圧することができず、サウス・エセックス連隊は全滅、戦場に散った。
我々の想像以上にウイルスの感染スピードは速く、そして恐ろしいものだったという訳だ。
と、その戦争後、私はある噂を耳にした。
情報源は、情報屋と名乗る男からなのだが、彼には世話になったものだ。彼の事はいずれ話すとして、その男に耳を疑うような妙な事を聞いた。
何故、世界一だと言われる軍隊が破れたか…それにはいくつかの理由があると、男は言っていた。
その中の一つに、例の話があった。
『ウイルスは日々進化し、己が寄生している体をより丈夫に仕上げていく。これは細胞分裂・破壊・再生・結合を繰り返し、体自体を強くするだけだ、というのは知っていると思う。だから、奴等は銃弾1発で死ぬし、言ってしまえばこければ死ぬ。
———しかし、戦争の場では少し勝手が違ったみたいだ。奴等は“自分の体を強くするために、周りの物を取り込んみ吸収していた”らしい。
——例えば、岩なんかを体に取り込んで分解、結合させて、岩の様な丈夫な体をてにいれたり、落ちていた銃を体の一部に取り入れたり…。
故に、銃弾を浴びせただけでは死ななかった。衝撃を受けるが、ウイルスに直接何かが起こる訳ではなく、体の表面が傷つくだけだからね。
…さっきも言ったように、ウイルスは日々進化しているんだよ』
——“「十分あり得なくもないが、所詮はウイルスだろう?それは何かの間違いだと思う。噂ほど当てにならないものはないからな」”
私はその話を聞いた時、笑ってそう言った。よく考えれば、考えられる訳がない話だ。本当に所詮はウイルス。殺人ウイルスがこの世界に何十何百と存在している事は知っているが、ウイルスだけの力で周りの物を取り込んで強くなっていくなど、聞いた事もないし、有り得ない。絶対にそれは有り得ない。ウイルスが突然変異して生まれたものとはいえ、1年でそこまで進化できる生体とは、到底思えないのだ。
*
『“Neisan”…そういえば、その名前はその情報屋に聞いたんだっけか』
アリアは、ふとその時思い出した。たしか、本当の名前は“ネイサン=ハートランフト”という人物の筈だ。その人物と、ここに武器を残していった人物が同一人物かは知らないが…サウス・エセックス連隊の先任曹長だったと彼から聞いた。何でも、最後の抵抗の前に行方不明になった人物だとか。今、その人物が生きていたとしたら、全滅したサウス・エセックス連隊の唯一の生き残りとなる———という名目でその話を聞かされたのだと思う。生きているなら…是非とも会いたいものだ。
アリアは近くにあったドラム缶の上に銃を置いて、武器庫にあった銃に色々と触れつつ、そんな昔の事を思い出した。