ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール ( No.10 )
- 日時: 2011/05/11 23:51
- 名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
陽嗚はそのまま何事もなく家へと帰り、自分の部屋のベッドへと寝転んだ。
「……僕は一体……?」
寝転びながら何もない天井に向かって手を伸ばす。
だけどそこには何もない。何も、なかった。自分の何もかもが。
どうやら自分は一人暮らしらしいということに今更ながらに気付いた。
歯ブラシやそれらのものは一本しかなかった。ただ使い捨てが結構あったのはもしかして遥の分だろうか?
親もいない、兄弟もいない。肉親と呼べる人が陽嗚という少年はいないのだろうと思った。
陽嗚はベッドから体を起こし、自分の部屋を探ることにした。
何か前の陽嗚の形跡か何かがあるかもしれないと思ったためである。
「ん…これって…」
そうした結果出てきたのは、一枚の写真だった。
その写真には笑顔の自分の姿と少し赤面な遥が自分と肩を並べてくっついている。
その後ろには登の姿と未来、そしてもう一人…見たことのない少女がいた。
「誰だ……?」いくら考えようと記憶がないためわからない。その写真はとりあえず自分のポケットに入れる
さらに探し続けると、少し大きい宝箱のようなものが一番奥にあった。
「何だこれは……?」
気になり、それを取り出して開けてみる。随分と埃っぽかったが、それらを払い落として目を落とす。
「これは……ノート?」
その中に入っていたのは一つのノートだった。だが外見が普通のノートは違う。
なにやらゲームのRPGでいう魔術本みたいな外見を誇っていた。
何が書いてあるのか気になったため、その本を開いてみる。
『何のために生きて、何のために死んで、何のために生まれ変わるのだろうか』と、記されていた。
「……なんなんだこれは……?」書いてあることが全くわからなかった。これは誰に記された本なのか。
だが、何故か続きが気になり、さらに開いてみる。
『人は生まれ変わる時が最も美しい。人間は人間でないぐらいが丁度よく美しいのだ』
何がいいたいのか。これを書いて、誰かが読んで何になるのか。
しかし、次の文章は陽嗚にとって驚愕の真実となる。
『人は一度死ぬとエンゼルフォールという世界の天秤の場へと行く。そこは生まれ変わるのか、ただ死ぬのかが決められる場。世界のバランスを保つ場でもある』
「エンゼルフォール……?」
エンジェルフォールとは日本語に直訳すると、天使の滝。
自分は…一体どこから来た?
(……滝……? ……まさか?)
自分はこの本を読んでいく内に自分の正体が一つのモノに結びついていく。さらに読み進める。
『生まれ変わるためにはエンジェルフォールへと落ちなければならない。だが、生まれ変われる可能性は0.01%である。そして、生まれ変わった者は——』
そこから先は途切れていた。
「そんな……!」
自分は、何者か。この本に書いてあることが真実ならば、自分は——
一度、死んで、エンジェルフォール…つまりあの滝に落ちた。
「僕は……一度死んでる?」
手が震え始める。異様に手に持っていた本が怖くなり、放り投げた。
それも、確率が0.01%だ。つまり下手をすれば自分は生き返らなかった。
ますます自分という存在がわからない。陽嗚という少年を死なせたのは自分ではないのか。
自分は陽嗚ではなく、他の誰か。そして生まれ変わったから陽嗚という少年そのものが死んだのでは?
考えれば考えるほど恐ろしくなっていく。頭を抱えて今にも叫びだそうとした次の瞬間、いきなり本が勝手に風も吹いていないというのにページを開きだす。
陽嗚はおそるおそる開かれたページを見た。
『生まれ変わった者は、もう一度自分へ生き返る。だが記憶は全て失われる、さらに——天使代行として天使の力を授かる』
「天使の……力? それに天使代行って……?」
よく見るとそのページにネックレスのようなものがあるとことに気付いた。
それはとても綺麗で、純粋な翡翠色のしたネックレスだった。
しかし、陽嗚がそのネックレスを手に取った瞬間、勢いよく輝きを増す。
「ッ!? ま、眩しい……ッ!」
陽嗚は翡翠色の光に包まれる。そして目を開けたその時。
「……女の……子?」
目の前にいたのは美しい、と一目見れば分かるような、まるで、天使のような女の子だった。
年齢は自分より下か同い年ぐらいで、格好は白い天使が着ているような真っ白な服を着ている。
髪も白色でまさに天使といえるような寝顔。その少女が緑色の光と共に現れたのだった。
「うっ……」
少女はゆっくりと眩しそうに目を開けた。陽嗚は戸惑ってはいたがとりあえず話しかけてみた。
外はもう真っ暗で今の光は何か近所の人が騒がしくなるのではないかと思ったが今はそんなときではない。
「あの……?」
「どこに……いるの……?」
「……え?」
その少女はゆっくりと立ち上がりながらそう言った。眼はどこを向いているのか虚ろなまま。
目の前にいる陽嗚の姿が見えていないようだった。
「どこ……に……!」
そして少女は陽嗚の方へと倒れる。陽嗚は彼女をゆっくりと抱きしめた。
「ッ!? 大丈夫? しっかり!」
だが少女は気絶しているようで陽嗚の言葉は少女の耳には届いてはいなかった。
——まだ、振り向いてくれないの?
——私はこんなに声を枯らしてまで君を呼んでいるのに。
——君は忘れてしまったのか。私のことを。
——君が死んだって、忘れたっていい。
——私は、君のことを
——ずっと、待っているから。
物語は小さく、小さく、しかし確実に——歩み始めた。